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航空宇宙のフロンティアをめざして
【3】 アーリス優勝・準優勝チームに聞く!―パラシュートの工夫が優勝の秘訣!―

2006.12.15更新

今回のシリーズで取り上げるのは、航空宇宙工学専攻のカリキュラムである「フライト実践による航空宇宙フロンティア(∼"Flight Test"を通じたプロジェクト実践教育∼)」。第3回目は、今年の9月にアメリカのネバダ州で開催された、ロケットの打ち上げや探査ロボットの性能を競う競技会「ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satellites/アーリス)」で優勝と準優勝を独占したチームの皆さんと航空宇宙工学専攻の吉田和哉教授に話をお聞きします。

吉田・永谷研究室はこちら

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ARLISS(アーリス)とは何か

瀬名 航空宇宙工学専攻の吉田・永谷研究室にお邪魔しました。今日お集りいただいた吉田和哉先生と学生のみなさんは「フライト実践による航空宇宙フロンティア ∼“Flight Test”を通じたプロジェクト実践教育∼」の一環で、ロケットの打ち上げや探査ロボットの性能を競う競技会「ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satellites/アーリス)」に参加されています。アーリスは、1999年からアメリカのネバダ州のブラックロック砂漠で開催されている航空宇宙の技術を競う大会です。今年の9月には、東北大から参加した2チームが1位と2位を独占したとお聞きしました。まずは、おめでとうございます。

吉田 ありがとうございます。私たちが参加したアーリスには、いくつかの競技部門があり、カムバックコンペティションのオープンクラスは、学生が製作した総重量1,050グラム以下のペイロードを、個体燃料を積んだロケットに載せて上空4,000メートルまで打ち上げ、パラシュートで着陸したあとに、あらかじめ設定されたゴールへ自律で移動させる競技部門です。ペイロードとは宇宙開発分野では、ロケットに搭載する観測機器を指しますが、カムバックコンペティションでは、自律型のロボットペイロードを開発します。
 ゴールを目指す方法には、降下中に滑空制御するフライ・バック型と、着陸後に地面を走行するラン・バック型が考えられます。私たちはラン・バック型を採用し、車輪で走る自律ローバーを開発しました。そのペイロードがゴールの近くまで到達すればするほど、優秀なチームとして評価されるわけです。このカムバックコンペティションは2002年から設けられ、私たちのグループは毎年参加しています。今年は日本、アメリカ、スペイン、韓国から13の大学が参加したんですよ。
 カムバックコンペティションで必要とされる技術は、極限状態を追求する航空宇宙技術や、現実世界で役立つロボット技術開発とリンクしています。航空宇宙工学専攻の分野で実践教育に取り組む「航空宇宙フロンティア」の開講が決定したとき、この競技会に白羽の矢が立ちました。先生たちと協議の上、教育に取り入れることになったのです。

瀬名 昨年も優勝したとお聞きしていますが。

吉田 そうです。しかし、バッテリー切れのために、賞金の出る50メートル以内にたどりつけませんでした。総合優勝ではあったのですが、手放しで喜べなかった。
 カムバックコンペティションに参加するグループをAチームとBチームに分けました。2チームに分けることで、お互いに意識しながら技術を高められるわけです。
 今年はAチームが約3キロの距離を走ってゴール前の6メートル地点で自動停止しました。6メートルというのはGPS(Global Positioning System)の計測誤差範囲内です。一方、Bチームは強風に流されて約7キロも離れた場所に着地したのですが、7キロの距離を平均時速2キロの速さで走り抜き、ゴールまで44メートルに迫りました。これは驚くべき成果だと思います。そろそろ正式に優勝してもいいかなと思っていたところでこの結果がでた。正直ほっとしています(笑)。

瀬名 メンバーの紹介をしていただけませんでしょうか。

吉田 Aチームからは、リーダーで修士1年の関口晃博君、回路とプログラム担当で修士1年の山名克尚君。Bチームからはリーダーで修士1年の吉川岳君、回路担当で修士2年の土田逸朗君、ペイロードの筐体設計担当で修士1年の児玉正明君に集まってもらいました。各チームとも、リーダーのもとで、メンバーが協力し合います。教授たちが細かく指導するというより、学生が試行錯誤しながら自主的に開発するわけです。

瀬名 リーダーはどうやって決定したのですか。

吉田 Bチームの場合、アーリス経験者が吉川君だった、という理由もあります。彼は学部生時代からアーリスを体験しています。

瀬名 一人でも現場を知っている人間がチームにいると、適切なアドバイスができますから仲間たちも心強いですよね。風洞実験にお邪魔したときは、鳥人間コンテストで飛行機を設計していた学生が、グループを引っ張っていたようです。
 カムバックコンペティションは、ロケットでペイロードを打ち上げて、目標地点まで移動させるわけですよね。学生にとっては初めてのことだらけだと思うんです。どうやってアイデアを練り上げ、設計し、完成させたのでしょう。

吉田 カムバックコンペティションには、制約条件が三つあります。一つ目はロケットに積み込んだらゴールするまでペイロードに手を触れてはいけないことです。完全自律でゴールまで辿り着かせるわけです。二つ目は重量。1050グラムと定められています。三つ目はペイロードの大きさです。直径146ミリ、長さ240ミリの円筒形に収まる形で作らないといけないのです。
 ペイロードのデザインは、試行錯誤の結果、左右に車輪を置くという2輪ローバー型に落ち着きました。参加当初は、私たちのグループだけがローバー型だったのですが、他大学のグループも私たちのデザインを踏襲するようになった。結局、ラン・バックを目指すチームは、すべてが2輪ローバーになってしまいました(笑)。円筒形を上手に使うことを考えると一番効率がいいようです。

瀬名 なるほど。ほかに工夫した点を教えてください。

関口 去年は、ゴールの直前まで4キロもの距離を走行したのにも関わらず、バッテリー切れでゴールまでたどり着けませんでした。ですから、バッテリーの消費を抑えられるように工夫すること、これが課題だったんです。
 バッテリーは容量を増やせば解決するのですが、砂漠には轍があったり、亀裂が入っていたりと年によって環境が違います。平地とは違って、想像以上にバッテリーを消費してしまう。バッテリーの消費を抑えるために、できるだけゴール付近に着陸させて、走行距離を減らしたかったのです。
 そこでAチームは大小2段のパラシュートを考案しました。最初に小さいパラシュートを開き、高速で落下させます。これで、風に流されにくくするわけです。次に大きなパラシュートを開いて減速させ、着陸させます。運も味方して、ぼくらの意図に近い場所からペイロードを走行させることができました。

吉田 過去の失敗例のなかで、一番多かったのがパラシュートの問題でした。パラシュートが開かなかったためにペイロードがフリーフォールしてしまったり、ペイロードの分離がうまくいかずに絡まってしまって走行できなくなったり、着地の衝撃でシステムがリセットされてしまったり、まったく動かなくなってしまったり……。過去の失敗は数限りありません。ですから、いかにパラシュートを確実に開かせて安全にペイロードを降ろし、走行を妨げないように改良していくかが、カムバックコンペティションで上位を勝ち取る鍵なのです。

吉川 ぼくは去年も参加したので、新しいことにチャレンジしたかった。それでペイロードとパラシュートを分離する新しい方法を考えたんです。パラシュートとペイロードの関係は相反するものがあります。というのは、降下する際には、しっかりと繋がっていないといけませんが、着陸したらスムーズに分離しないといけないからです。可動部分が多いほど失敗する可能性が高くなりますから、できるだけ単純な方法でパラシュートとペイロードを分離したかった。そこで、ニクロム線とナイロン線を使う方法を思いついたのです。ペイロードが着陸を認識したら、ペイロード側に繋がっているニクロム線に電流を流し、パラシュート側に繋がっているナイロン線を溶かして分離できるようにしました。可動部分はほとんどいりません。電流を流すだけで分離する。これはうまくいきましたね。
 ペイロードが着陸したと認識させるために、緯度・経度・高度が計測できるGPSを使いました。たとえば、ある高度を設定します。その高度を通過し、長時間ペイロードが下にいた場合は着陸したと認識するようにしたわけです。

吉田 カムバックコンペティションは、ペイロードを完全自律で動かさないといけません。ペイロードがすべて認識し、その状況にふさわしい対応をしなければならないのです。もしも、空中で着陸したと誤認識してしまったら、自動的にパラシュートが分離し、そのまま墜落してしまいますからね。Bチームは、パラシュートの収納方法も面白いんですよ。

吉川 いかに効率よくパラシュートをロケットに収納するかみんなで議論し合った末、釣り竿を使う方法を思いつきました。円筒形の筒には、ペイロードとパラシュートが収まらないといけません。まず釣り竿を改造したロッドを縮めて収納します。落下とともにロッドが伸びるようにしたんです。ただし、着陸後、ペイロードの上にパラシュートがかぶさってしまって、走行を邪魔しないとも限りません。パラシュートの半径よりもロッドを長くしました。そうすることでパラシュートとペイロードは接触しないのです。釣り竿は、短くも長くもなる。このアイデアはうまくいきました。
 ちなみに釣り竿は100円ショップで仕入れました。釣具店やホームセンターを覗いたんですが、100円ショップの釣り竿が一番加工がしやすかったんです(笑)。

瀬名 カムバックコンペティションのアイデアは、100円ショップにも転がっているわけですね(笑)。

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