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すばる望遠鏡から雪の日に滑らない靴底まで

 堀切川 このセラミックスの特徴は、すごく硬くて、摩擦が低い。擦るとするすると動くんです。それで、これを使って「軸受け」をつくりました。

 軸受けとは、機械が動くときのガイドレールのようなものだ。工場でロボットが前後に動くとき、動きの方向をガイドするレールが下に敷かれている。その部分は耐久性があるほうがいい。しかも過酷な環境で使う場合や、食品工場など清潔さが求められる場所で使うなら、潤滑油なしでもきちんと滑ってくれる材質のほうがありがたい。
 もともと堀切川先生は、木材を原料としたウッドセラミックスの研究をおこなっていた。堀切川先生の講演を聴いて、山形県の油脂メーカーの社長が「脱脂ぬかを捨ててしまうのはもったいない。木材でセラミックスができるなら、同じ植物材料である脱脂ぬかも使えないか」と持ち込んできたのが始まりだ。RBセラミックスは強くて硬く、しかも多孔質なので軽い。そして低摩擦、低摩耗の優れた性質を持つことがわかったのだ。
 堀切川先生は、このRBセラミックスの仕事で文部科学大臣賞を受賞した。

 堀切川 この軸受けはね、ハワイにある「すばる望遠鏡」にも使われています。この観測所は空気の薄い山の上にあるんですけど、ここでは望遠鏡の観測装置用レンズを氷点下185度まで冷やして位置決めして動かさないといけない。世界中のどこのメーカーの軸受けも、グリスが固まって動かなかった。そこでオイルフリー、メンテナンスフリーのRBセラミックスが採用されました。
 「さとうのごはん」のパッキング装置にも、エビせんべいの装置にもRBセラミックスが入っている(笑)。お米の調理食品をつくるための機械部品に米ぬかのセラミックスが使われているのは、世界中で日本しかない。これでアメリカ人に独創性がないとは決していわせない(笑)。
 それから、このRBセラミックスは粉状にして、自由に成形できます。それで滑りにくいゴムもつくっています。雨の日や雪の日でも滑って転ばない、嬉しい靴底。4万足以上売れています。

瀬名 いままでの商品は滑りやすかったのに、これが滑りにくいのはなぜなんですか。



RBセラミックスの構造 脱脂ぬかの炭化物のまわりをフェノール樹脂の炭化物が取り囲むような構造をしている。ひとつの粒子の大きさは30マイクロメートルから1ミリメートル。粒子の内側の多孔質構造のため、RBセラミックスは触っているとプラスティックのようなクッション性を持つ。一方、周囲のフェノール樹脂の炭化物は、炭化するときに縮んでいくつもの層を複雑に縛ったようなかたちになる。これが高硬度、高強度を生み出す。

     
RBセラミックスを使った滑って転ばない靴底
受験生にも是非、履いてもらいたいものだ

堀切川 いいところ衝いてきますねえ(笑)。まずひとつの理由は、RBセラミックスが硬いので、靴底からこの粒が出て雪や氷面に小さなスパイクのように食い込んで滑りを防ぐ効果があります。もうひとつの理由は、このRBセラミックスが多孔質なのでスポンジのように隙間の中へ水を吸って、水膜を吸収する効果があることです。滑る原因は靴底と床の間に水膜があることなんですけど、その水が穴に逃げちゃう。ゴムと床の間にミクロンサイズで残っていた水膜を切ってしまいます。穴にぜんぶ格納して、その穴からゴムのドレッドパターンを利用して排出する。するとゴム本来の高い摩擦が蘇る。という答えになっちゃった(笑)。
 これでできたのが、自分の靴にぺたっとシールを剥がして貼るだけで、滑らなくなるというアイデア商品「スノーパッチ」。冬場になると靴屋さんにこういうのが並んでいるんですけれど、類似品が非常に多いので、タグの後ろを見て下さい。1行目に私の名前が書いてあるのが本物(笑)。
 滑りにくいサンダルも、石巻の会社とつくっています。こういうタグがついているんですけど、後ろに私の写真があるのは正しいサンダル。

瀬名 昔の写真じゃないですか(笑)。

堀切川 いや、これちょっとタテヨコ比をいじった(笑)。太っていたんで、ちょっと写真を上に引っ張った。東北大学病院に入院する患者さん専用のサンダルもつくりました。「安全足進(あんぜんそくしん)」っていうんです。

タグの裏に堀切川先生の写真付きのものが正規版



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