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2008.2.8更新
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いよいよ東北大学機械系の見学ツアー最終回! なごり惜しい最終回を飾るのは、田中真美研究室。人間の指先の感覚を機械で測定する!?人間の五感を超えた研究を企業と共同研究していらっしゃる田中真美先生。世に出回る前に研究の成果を二女高生さんたちとさっそく試してみました。《構成:瀬名秀明》

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田中真美准教授 奥山武志助教





   数種類のサンプルの布



 う〜んどれが柔らかいかな〜


 続いて訪問したのは、工学部の中心に位置する「事務部管理棟」。古き良き時代を思わせてどことなく温かな(?)この校舎の1階に、田中真美准教授の研究室があります。
 実は二女高の皆さんは、以前に田中先生の講演を聴いたことがあり、高校の「職場見学」実習でもこちらにも来たことがあるのだとか。それで今回はもっと知りたいと思って、機械系ツアーに参加してくださったのだそうです。
 それでは今回は実際に研究室で、実験のデモンストレーションを見てみることにしましょう。

ふんわり感を機械で測る!

―― よろしくお願いします!

瀬名 小物がたくさん置いてありますね。あっ、マンガ雑誌も揃っている。

田中 私がマンガ好きなんです(笑)。

瀬名 今日はどんな実験を拝見できますか。

田中 布と、皮膚の計測、それから点字センサです。まずは布の手触りを測る装置をお見せしますね。



布のふんわり感を測る。皮膚センサを押しつける圧力も、
擦る速度も、実際の人の指の動作をまねて設計されている。

 田中先生がまず見せてくれたのは、机の上に乗っている機械。この研究に携わっている男子大学院生が、にこやかな表情で迎えてくれた。
「―生体とメカトロニクスの融合― それがわたしたちの目標です」
 と田中先生のウェブサイトのトップページに掲げられているように、この研究室では従来の機械工学のイメージとは異なった「やわらかい」研究が進められている。特にいま田中先生たちが注目しているのは、ヒトの皮膚感覚受容器のひとつである「パチニ小体」だ。このパチニ小体は、皮下組織の中で圧力の変化を感知する働きがある。何かを触ったとき、でこぼこしているなとか、滑らかだなと言った手触りがわかるのは、指先のパチニ小体にかかる圧力がどのように変化しているかを、私たちが敏感に感じ取っているからだ。
 田中先生たちは、このパチニ小体と似たような働きをする高分子圧電材料「ポリフッ化ビニリデンフィルム」(PVDF)に着目した。このPVDF膜は圧力を受けて歪んだり凹んだりすると流れる電流が変わるのだ。そこでこのPDVF膜を使えば繊細な皮膚センサができあがる。田中研究室の面々は、この新しいセンサをさまざまな場面に応用しようとしているのだ。

田中 皆さんは布のふんわり感をどのように測るか知っていますか。この下着はふんわりしているとか、着心地がいいといいますけれど、実はどれがどのくらいふんわりしているかをきちんと調べるのは難しいんですね。布の風合いという言葉があります。布を触ったときの手触り感なんですけど、布や衣服のメーカーではそういった風合いを調べるプロがいるんですよ。職業熟練者が判断しているんですけれど、それを機械で測定できないか、ということで触感を測る装置を開発したんです。

瀬名 機械系としてはおもしろいテーマですよね。機械工学っていうと歯車とか油まみれのイメージだけど、身近なテーマですね。


田中 では、ここに何種類かのサンプルの布があります。どれがどのくらいふんわりしているか、わかりますか? 布を触ってみて下さい。

瀬名 写真を撮りますよ。顔を上げて。

―― ポーズ、つくりすぎ!(笑)

瀬名 (サンプルを撫でながら)うーん、どれがといわれても難しいですね……。

田中 実は全部ふんわりしているんですけれど、プロにいわせるとサンプルのいくつかはぺたっとしているというんですよ。そういう微妙な感覚を装置で測ってみようと考えました。ふんわり感の個人的な好みがわかれば素材選びもできますしね。
 触覚センサですが、ヒトの感覚受容体の中に「パチニ小体」と呼ばれているものがあるんですね、それと似た働きをするセンサ素子です。圧力をかけたとき、センサの電圧が変わって、こちらのモニタに微分の波形で出力が出てくるんです。
 実際に人間の手が布を評価するときのような動きを、この触覚センサに与えます。この装置だと触覚センサを布に押しつけて、横に擦る動作なんですけど、ただ押しつけるだけではなくて擦る動作を加えることで、人間の感覚とよく似た感覚が測定できるんですよ。

瀬名 ええと、大学院生の彼はふだんからこういう格好なの?

田中 そうです。彼はふだんから……面白い(笑)。

学生 ではやってみます。

【ふんわりやわらか】 【ぺたっとかたい】


油まみれの工学部って 
イメージじゃないぞ!!

学生 こんな波形が出ます。これを信号処理します。

瀬名 どんなことがわかるんですか。

学生 まずは出力波形の大きさで、振幅の大きさは布のざらざら感がわかります。もうひとつは周波数解析ですね、パチニ小体は感覚受容器の中でも鋭く応答するところが決まっているんですよ。おもしろいことに100ヘルツか300ヘルツくらい、そこがすごく敏感なんですね。だからそこの周波数がすごく強いものかどうかを見てあげると、人間がどう感じるかがわかります。

田中 繊維メーカーではこの装置で布の評価をしています。さっきもお話したように、これまではたくさんのプロを使って布の評価をしていたんですね。でも時間がないので、これで測定してこれはどういう布だとわかれば、次々と新しい布を開発できますから。

―― パッチリなんとかって……。

田中 パチニ小体。

―― はい(笑)。体中にあるんですか。

田中 そう、でも指先にいちばん多くて、感覚も鋭いんですよ。パチニ小体の働きを使うのはこれまであまりなかった研究ですね。触覚センサの研究はたくさんありますけれど、やっぱり力を測ろうという研究が多くて、人間の感覚をこうやって工学的に測るのは新たな試みだと思います。自分でいうのは恥ずかしいけどね(笑)。

―― いま測った布は柔らかいんですか。

学生 これは柔らかいですが波形をぱっと見ただけでわかるほどではないんですよ。信号処理してようやくわかるくらいの違いです。いまやっているのはどれも下着で、指で触ってもよくわからない、そういうレベルですね。

田中 このサンプルの中には、プロでも違いがよくわからない、プロでも意見がまとまらないものがあるんです。そういうのも違いがわかるようにしたい。超五感という言葉がありますけれど、人間の五感を超えてゆくのはこういうことなのかもしれませんね。実はこれ、私の博士論文のときから継続している研究なんです。



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