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2008.2.29更新

 前回に引き続き、若手ロボット系研究者にそれぞれ現在の研究について語っていただきました。新しい可能性を目指して生まれてくる技術は、いずれも機械のイメージを刷新するイキのよいものばかり。
 熱い思いをそのままの言葉でお届けします。
《構成:瀬名秀明》


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平田泰久 パッシブロボティクスの可能性

 




 


平田 「瀬名秀明がゆく!」ではシリーズ1「青葉山でロボットを語ろう」でダンスロボット「PBDR」の話をしました。本当に人とロボットが協調して、社会で働いてくれるにはどうすればいいか。人の意図を本当に推定する、かゆいところに手が届くロボットができれば、人と人が協調するように人とロボットも協調できるんじゃないか。そういうことを考えていて、その意味でダンスはとてもいいアプリケーションなんですね。男性のリードをうまく捉えて呼吸を合わせて、いっしょにダンスできるロボットは、人間の意図を推定して協調できるロボットの第一歩といえます。人間とうまく踊れるダンスロボットができれば、その技術はダンスに限らず介護やいろんなところに入ってくるロボットの礎となるのではないか。
 そこで今日は別の話として、「パッシブロボティクス」を紹介します。最近興味を持っているのは、能動的(アクティブ)ではなくて受動的(パッシブ)なロボットシステムなんです。人の歩行を支援する介護ロボットをつくるとします。すると多くの人はモータを使うんですね。これをわれわれはアクティブ型のシステムと呼んでいます。
モータの駆動でそのシステムが動いて、高機能化・多機能化してゆく。ただ、どうしてもシステムは複雑になりますし、安全性にも問題がある。
 人間社会にロボットが入ってこようとしたとき、いまいちばん重視されているのが安全性です。もし歩行支援機のモータが誤動作して、勝手に動き出してしまったら、その人を引きずって転倒させてしまう。法律の問題や保険の問題が出てきてしまいます。それに対して、いま多くの高齢者が使っているシステムはパッシブなシステムで、モータなんかついていない。たんに車輪とキャスターとブレーキがついている程度ですね。それをふつうに押すだけで体重の支えになる。そういうシステムはシンプルかつ軽量でいいんですが、ロボットシステムと違って機能はぜんぜん足りない。
 そこで考えたのがパッシブ型のロボットシステム、つまりモータを使わないで人間の体重や力をうまく制御する技術を使うことで、知的な歩行支援を実現できないかということなんです。このシステムでは、ロボット自身で動く力はなく、利用者が加える力を駆動力にします。人間が加えた力をロボット技術で「制限」してあげることによって、「結果的に」安全で、多くの機能を持ったロボットをつくります。

 

 この歩行支援機は、後輪の部分にブレーキをつけているんですね。ブレーキを制御することで運動を制御していて、センサで前方に障害物を発見したら、その障害物からよけるようにうまく一方の車輪にブレーキをかけます。すると、ただ押しているだけなのに自然と方向が変わって、目の不自由な人でも安全に歩行ができる。
 ロボットに地図を入れてあげれば、ぶつからずに病院の廊下を進んでゆくこともできます。目を瞑っていても、ただ押すだけでロボットの後輪2輪がブレーキをかけて、曲がったり、人を避けたりできるわけです。診察室に行きたい、トイレに行きたいと指定してあげれば、あとは押しやすい方向へ行くだけで目的地に着ける。大野さんの発表にあったような3次元地図の技術を組み込めば、人を案内することもできますね。
 次は重力補償をする機構です。角度センサに基づいて、重力の影響分だけをブレーキでサポートするシステムを、歩行支援機に取りつけました。坂道で手を放しても動かない。でもこれはブレーキでがっちり止めているわけではないんです。ブレーキをがっちりかければ手で押しても動かないんですが、この歩行支援機は重力分しか補償していないので、押せば普通に動いて、手を放せば止まります。モータを使わないでブレーキだけなので、制御するのも難しいんですが、理論としておもしろいし、実用化という面でもおもしろい。
 また,ダンスロボットの人の意図を推定する技術を利用して、人間の状態推定をしています。いまここに歩行支援機と、椅子に座っている人間がいます。この人は歩行支援機の取っ手を持って、  座っている状態から立ち上がって、支援機に支えられながら歩いてゆく。このロボットにレーザレンジファインダというセンサをつけて、ロボットと人間の距離を測定します。人間が座っていると判断したときは、車輪にブレーキがかかって、動かなくなるので、人は歩行機を支えにして立ち上がることができます。
レーザレンジファインダは、すねの距離を随時測定していて、その人間の状態を見ます。立ち上がろうとするときは支えになるし、立ち上がったらブレーキが解除されて、押せば進む。人間との距離が広がって、転倒しそうだとわかったらブレーキがかかる。従来の歩行支援機だとここで転んでしまうんですが、これは 支えになって転倒を防ぎます。
 すねの距離をずっと測っていると、人間の歩行分布を描くことができます。人間が歩行しているときに、どのくらい離れているかを示す分布図です。まだ健常者しか測定していませんが、身長の低い女性は歩幅が小さいということがこの分布図でわかります。身長の高い男性だと分布が広くなる。被験者の左足を拘束して、動かしにくくしてあげると、分布が少し傾くんですね。人によって分布の状態が変わってくるので、この分布を常に見てあげることで、その人の歩行状態がよくわかるんです。

瀬名 なるほど、逆にこの分布を見ながら自分の歩き方をきれいにすることもできそうですね。


平田 もうひとつ紹介するのは物体の搬送です。このように直方体の荷物をふたつのパッシブ型の全方位移動型ロボットで下から支えて、一点でロープを引っ張って搬送するとします。途中で道の狭いところにやってきたら、うまく通過できるように向きを変えないといけない。ここではロボットがうまく障害物を認識して協調することで、勝手に姿勢を変えて、荷物を縦にして通り抜けていきます。ただ引っ張っているだけなのに、障害物を避けて、また姿勢が戻る。これもさっきと同じように、ブレーキだけで制御しているんです。

瀬名 おもしろいですね。ありえない方向に動いているように見える。

 引っ張るだけでは不可能な動きもありますか。

平田 もちろんです。加速する動きはできません。でも横向きには動かせますよ。引っ張る(押す)とふつうは真横の方向には力が出ないと思いがちですが、実はできるんです。アシストする方向にまず力がありますね。ブレーキが発生できる領域にも力が生まれますから、両方の合力をうまく計算してやれば、横の方向にも動く。

瀬名 でも現象としてまだイメージが湧かない(笑)。

大野 見えないレールの上に乗ったトロッコをロープで斜めに引っ張る感じですかね。手前に引いているのに、トロッコはレールに沿って別の方向に動く。

瀬名 なるほど!


 


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