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永谷圭司 ロボットを本当に動かすということ







永谷 まず、自己紹介をします。ぼくは1968年生まれで、1979年に親父がPET-CBM3032(注7) というパソコンを買ってきた。「これからはコンピュータの時代だと新聞に書いてあった」といって、車を買うための貯金をすべて注ぎ込んだんです。なんと当時29万8千円で。まだオタクという言葉すらありませんでしたが、工作好きの少年時代に我が家にパソコンがあったというのは自分にとって重要な体験でした。だから1980年に始まったばかりのマイクロマウス大会にも興味津々。それで当時、「週刊アスキー」という雑誌の投稿欄にマイクロマウスについての質問を見つけたんです。「どうやったらこれができるようになりますか」と。すると回答に「大学に来なさい」と書いてあった(笑)。「じゃあしょうがない、ぼくも大学に行くか」と思って、そこで道が決まった。後で筑波大学に入って気づいたんだけど、研究室の油田信一教授はかつてマイクロマウスを立ち上げた人の一人でした(笑)。
 博士課程の学生のときは、とにかくロボットを動かしたかったんですね。移動ロボットの研究室なのでマニピュレータをつけてロボットを動かして、ノブを回して扉を開けるロボットをつくった。楽しかったですね。小さいころ、家にパソコンがあったために、情報系の研究室を選んだことが、いつの間にかロボットを動かすことにつながったんです。岡山大学でも相変わらずロボット三昧の日々でした。
 いま、東北大学でやっているのは大きく分けてふたつ。まず、ひとつは宇宙探査ロボット。そしてもうひとつはレスキューロボットです。宇宙探査ロボットの話からさせていただくと、これは、ぼくが所属している吉田和哉教授のご専門のひとつでもあります。ぼくは後で知ったんですが、この研究では何がポイントかというと、月のような環境下では砂地で車輪が滑ってしまうということなんです。



 どうも車輪が砂の上で滑るとはどういうことか、いまだに正確にはわかっていないらしい。剪断力や応力が関係する数式はあるのですが、いろいろ変数(パラメータ)が出てきて、経験的に求まるところもあって、よくわからない。こういったパラメータと格闘しながら、ロボットが実際にどのように動けたかを理論値と比較するんですが、本来はこの両者が近い値であってほしいわけです。月や火星に探査ロボットを送り込んだとき、こちらの思ったように動いてくれないと、どんな事故が起こるかわからないでしょ。こりゃまずい!と思って止めようと思っても、間に合わないといけない。
 そこで、砂地でも、うまく移動できるロボットをつくっています。砂地に車輪が取られて埋まってゆくような場所でも、この機構を使えば踏破できるというものを。例えば自分がどのくらいスリップするか事前にわかっていると、カウンターを当ててやる、つまりステアを切ることでそれを補償できるわけです。基本的には数式による予想とセンシングの両方を使い、斜面の状態や土の性質が全部わかっていると仮定して、パラメータを導き出し、ステアリングの角度を計算する。でも、実際はどうしてもズレてしまうから、センサを使ってフィードバック制御する。
 ただ、いま、ロボット研究者にとって越えられない悲しい壁は、前輪がつくった轍の上を後輪が通ると、砂の硬さが変わっちゃうということなんです。そんなの当然だと感覚的には思うんだけど、現在のところ前輪と後輪の間の距離しか滑り具合が予想できない。
 最近は解析的なアプローチだけでなく実験を主体としたアプローチも大いに取り入れています。ぼくは実験の方が好きだから、車輪の回りにセンサを貼って、いろいろ調べてみたりね。こういう研究知見の有無で、月探査ロボットが月面で本当に使えるようになるかどうかが、まったく変わってくる。砂そのものもチャレンジングな課題なんです。

平田 こういうタイヤのパターンだと滑りにくいとか、設計論に持っていけるのでは? 

永谷 いまは試行錯誤でやっている部分も大きいです。車輪の突起のかたちとか。
 ぼくが取り組んでいるもうひとつの研究、レスキューロボットについて話をします。例えばレスキューロボットの遠隔操縦の研究がその中の一つですが、最近、衛星通信を使った災害救助がJAXA(注8)でも盛り上がっている。ただ、衛星を使おうが使うまいが、遠隔でのロボットの操縦は実は大変なんです。今年で終了するSCOPE(注9)の研究プロジェクトでも、大きいロボットに小さいロボットを乗せて遠隔操縦するという研究をやりましたが、やはり直接ロボットを見ないで操縦するのはとても難しい。

瀬名 (映像を見ながら)「今週のびっくりどっきりメカ」(注10)が出てくるみたい。

永谷 そうですね(笑)。こちらは大野くんの研究と近いのですが、小さいロボットは前に行けというだけで動いてほしい。簡単に言えば、いかにロボットをきちんと動かすかという研究なんです。ここで使っている技術は大野くんとは違いますが、方針は違ってもやりたいモチベーションは同じ。
 ぼくらのグループで力を入れているのは、車輪やクローラーが滑るのはどういうことか、その解明と応用です。クローラーの滑りを推定して、実際にロボットがどこにいるのかを見きわめる技術です。

大野 それはぼくらにはない技術ですね。

永谷 どれだけ自分の位置をしっかり推定できているか。オドメーター(積算計)ってご存じですか。走行距離を示すメーターで、自動車だと速度計の下についています。その「オド」と同じ語源で「オドメトリ」(注11)という方法があります。自動車のオドメーターは、車輪がどのくらい回転したかで走行距離を示していますが、左右の車輪の回転角度を別々に計測すれば、どちらの方向にどれだけ曲がったのかもわかりますよね。移動ロボットの分野ではよく使われている方法です。
 このオドメトリの手法を応用して、ロボットがどれだけ滑ったかを調べます。ちょっと滑ると、少し角度がずれる。ふつうはそれが積分されてゆくので、どんどん理論値と実際の値がズレていっちゃう。短い距離でロボットの位置を調べるならオドメトリは有効なんですが、長い距離を走ると誤差が広がってダメになる。だから滑りを同時に推定することで長距離を走っても大丈夫なモデルをつくってあげます。

瀬名 なるほど、それを仙台の地下街で実験してみたわけですね。

永谷 ええ。JR仙台駅から地下鉄のコンコースに降りるエスカレータのところ、あそこに基地局を置いて、そこからずーっと地下鉄のところまで行って、地下鉄のホームに降りて、向こうまで登ってゆくという目標で実験しました。途中のノードがひとつ壊れていて、結局ホームのところでリタイヤしてしまいましたが、通信が大変大きなキーテクノロジーであると再認識しました。

大野 これだけ長距離の実証実験をしたのはいままで例がなくて、有用な情報は得られたかなと思います。

 次回は、いよいよ全体の討論へ。東北大学機械系の特徴とは?未来に向けて若手はいま何を思うのか?

(注7)
32キロバイトRAM、32キロバイトROM、グリーンディスプレイ、BASICを標準搭載。

(注8)
JAXA:宇宙航空研究開発機構。

(注9)
SCOPE:戦略的情報通信研究開発推進制度(総務省)。詳細はこちら

(注10)
テレビアニメ『ヤッターマン』に登場するロボット。親ロボットの中から小さなロボットがたくさん出てきて、群ロボットとして活躍する。
(注11)
オドメトリ:デッドレコニングともいう。

(第2回おわり)

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