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スプライトサット sprite-sat スプライト観測衛星を打ち上げよう!
スプライトサット sprite-sat スプライト観測衛星を打ち上げよう! alt=

 雷雲の上に光るふしぎな“妖精”現象を、世界中の誰よりもはやくつかまえる!
このプロジェクトに挑戦する東北大学の面々を「瀬名秀明がゆく!」が徹底取材。
サイエンスとテクノロジーの粋をぜひ感じてください!《構成:瀬名秀明》

2008.6.6更新

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50センチ立方の小さな人工衛星で世界をめざす!


高級宇宙工学専攻/スペーステクノロジー講座/宇宙探査工学分野 吉田・坂本・中西研究室、永谷研究室
「スプライト」と呼ばれる現象をご存じだろうか?
 1989年、いまからわずか20年ほど前に初めて写真に収められたこの不思議な現象に、いま世界の科学者が沸き立っている。清涼飲料水の名前としても馴染み深い「スプライト」とは「妖精」のこと。雷雲の上で光るこの放電現象は、いまだにその正体がほとんどわかっていない。
 地上からでは雲やエアロゾルが邪魔をしてよく見えず、全体像も見渡すことが難しい。ならば宇宙から観測しようと、いまフランスをはじめいくつかの国が観測衛星の打ち上げを計画している。
 誰よりも早くスプライトの正体に迫るにはどうすればいいか? 通常の人工衛星なら計画を立ててから打ち上げまで10年、予算としては100億円を超える規模の費用が必要だ。それをわずか1年で、予算も超格安の1億円でやってしまおう! これがいま東北大学の進めているスプライト観測衛星(SPRITE-SAT)プロジェクトなのだ。
SPRITE-SAT(スプライトサットのWEBサイトはこちら
SPRITE-SAT スプライトサット スプライト観測衛星
SPRITE-SAT スプライトサット スプライト観測衛星 略図
SPRITE-SAT スプライトサット スプライト観測衛星 略図

 プロジェクトの中心に立つのは、東北大学理学部の高橋幸弘講師と、東北大学機械系の吉田和哉教授。実際に衛星をつくるのは、熟練技術者の方々とタッグを組む東北大学学生チームだ。
 2008年冬、SPRITE-SATは種子島から国産ロケットH-IIAに載って宇宙へと打ち上げられる。
 まずは第一弾として、SPRITE-SATが目指すサイエンスと、衛星開発に込められた熱い思いを紹介しよう。
 これを読めばSPRITE-SATプロジェクトのすべてがわかる!


理学部理学総合棟12階、スプライト衛星組み立てている建物
理学部理学総合棟12階、スプライト衛星組み立てクリーンブース

  吉田和哉教授
 
 

吉田和哉 教授

1984年3月
東京工業大学工学部卒業

1986年3月
東京工業大学大学院工学研究科修士課程修了

1986年〜1994年
東京工業大学工学部機械物理工学科 助手

1994年3月〜1995年3月
米国マサチューセッツ工科大学 客員研究員

1995年
東北大学工学部機械航空工学科 助教授

1998年〜
国際宇宙大学 非常勤講師

2003年
東北大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 教授

 


スプライトサットの側面部分太陽電池パネルを持つ升本喜就さん。写真
太陽電池パネルを持つ升本喜就さん。1枚のパネルで14ワットの出力が見込める。
アルミパネルの内部はハニカム構造になっていて軽い。裏側は輻射による熱を防ぐために鏡面状になっている。パネルを固定するねじ穴の位置までひとつひとつ設計図で管理する。

メイン衛星にあいのりする際のスプライトサット
【図1】メイン衛星にあいのりする際はこのような形で搭載

 

スプライトサットプロジェクトチームメンバーと瀬名秀明氏
スプライトサットプロジェクトチームメンバーと瀬名秀明氏
左から、学生プロジェクトマネージャーの氏家恵理子さん、研究責任者の高橋幸弘講師、瀬名、プロジェクトマネージャーの吉田和哉教授、学生の滝内 圭くん(修士2年)、澤上友貴くん(修士1年)。
側面パネルが取り外されているので、SPRITE-SATの内部構造がわかる。中央は構造的な支えとなるほか、バッテリーやコントロールパワーユニット、マスト伸展メカニズムなども組み込まれる。通信機のコンポーネントやコンピュータ類はこの柱の表面に配置される。
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 理学部理学総合棟12階、衛星組み立て室。この小さな部屋の奧はビニールシートで隔離されたクリーンブースになっていて、中に入るには白衣と帽子を身につけ、静電気を防ぐ上履きに履き替え、マスクをすることが必要だ。宇宙へ打ち上げる人工衛星「SPRITE-SAT」がこの中で組み立てられている。
 2008年4月21日。SPRITE-SATとの初対面である。この日の衛星は上の一面だけ太陽電池パネルが仮組みされており、あとの側面はまだ取りつけられていなかった。

瀬名 小さいですね!

吉田 この衛星は一辺が約50センチ。今回はあいのり衛星といって、メインの大きな人工衛星といっしょに打ち上げてもらいますから、ちょうど隙間に収まるよう50センチ立方の範囲内で設計することが義務づけられています。50センチ立方というのはいくらかの観測機器も搭載して、中身のあるミッションができる小型衛星のスタンダードな大きさなんですよ。
 今日の段階ではまだ組みつけていませんが、最終的には全面が太陽電池パネルで覆われます。

静止軌道と極軌道の違い。スプライト観測衛星は極軌道の宇宙から観測する。静止軌道からだと地球の一点だけを24時間観測できるが、極軌道をまわるスプライト観測衛星は地球が自転しているので日本上空だけでなく地球をくまなく観測できるのだ。図
静止軌道と極軌道の違い。スプライト観測衛星は極軌道の宇宙から観測する。静止軌道からだと地球の一点だけを24時間観測できるが、極軌道をまわるスプライト観測衛星は地球が自転しているので日本上空だけでなく地球をくまなく観測できるのだ。

吉田 このSPRITE-SATは、2002年に千葉工業大学が制作した鯨生態観測衛星(注1)をお手本にしているんです。それも50センチ立方の小型衛星で、90年代にスタートした衛星設計コンテストの第1回入賞作(1993年)なんです。そのときの開発で技術サポートをなさった升本喜就さんが、今回のSPRITE-SATに協力していただけることになりました。

升本 こんにちは。

吉田 升本さんは日本の科学衛星の黎明期からいっしょに歩んでこられた一流の技術者。ぼくたちにとってテクニカルアドバイザーであり、学生たちのメンター(経験豊富な指導者・助言者)でもあります。ぼくたちは升本さんにご指導いただきながら、衛星づくりのノウハウや勘所を教わって、鯨観測衛星をお手本にしつついろいろ改良も加えて、これまでになかった新しいチャレンジを進めているんです。

瀬名 打ち上げられるJAXAのメイン衛星は温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)なんですね。これは約1.8トンもあるんですよね。あいのりでは他にどんな衛星が上がる予定ですか。

吉田 メイン衛星の周りに4カ所、あいのり衛星を置く場所【図1】があります。まず、50センチ立方の衛星が3つ。ぼくたちのSPRITE-SATの他に、東大阪の組合がつくっている衛星「まいど1号」、そしてJAXAがつくっている小型実証衛星 1 型(SDS-1)があります。残りの1カ所にはさらに小さい、CUBE-SAT(注2)という東大や都立産業技術高専の超小型衛星などが載る予定ですね。
 軌道上でぶつからないようにタイミングをずらして順番に切り離しをするんですが、ご本尊の衛星が何百億円もするので、そのメインを絶対に妨げないことがあいのりの条件です。切り離す順序もメインがいちばん最初。
 衛星をつくる素材は厳密に決められていて、たとえばロケットは真空中を上昇していきますから、衛星の素材に揮発成分があると、それが気化してしまいます。特にプラスチック系の素材はホルマリンガスのようなものが揮発するので使えません。メイン衛星の表面に付着したりレンズを曇らせたりしてはならないので、使う素材には厳密な規定がありますね。

 

(注1)
2002年12月14日、H-IIAロケットで打ち上げられた衛星。愛称は「観太くん」。日本ではじめて学生たちが設計・制作に携わった衛星で、民生用の部品を利用した小型衛星のさきがけ。2002年1月には学術雑誌「ネイチャー」でも紹介され、世界的に有名になった。
(注2)
約10センチ立方の大きさを基本とする小型人工衛星。米国スタンフォード大学のトゥィッグス教授によって提唱され、日本では,2003年に東京大学と東京工業大学の学生らが製作したCUBE-SATが,それぞれ、ロシアのロケットによって相乗り打ち上げされた。それ以来,手作り可能な宇宙技術の実証機会として注目を集め,多くの大学にて開発が進められている。


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