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世界が成し遂げられなかった技術瀬名 ハーフトロイダルCVTは、ギアを使わない自動車の変速機といっていいわけですね。 町田 そうです。従来のギア式自動変速機は、ギアを複雑に組み合わせながら変速させます。ギアの摩擦によって動力のロスが生じる。燃費にも影響します。これに対してハーフトロイダルCVTはギアを使わずに、円盤とローラで動力を伝えます。エンジン側と出力側の円盤のあいだのローラの傾きによってなめらかに変速します。変速がなめらかなので動力のロスもなく、燃費も改善します。 瀬名 ハーフトロイダルCVTの原理というのは、ぼくのような素人にとっても実はすごくわかりやすい。おそらく一般の人も、こういうふうにして変速をうまくやるんだっていわれれば、すぐにわかってくれると思います。けれども、これが大変だったわけですね。なにしろ21年もかかった。 町田 アイディアは20世紀初頭からあったんです。けれども、だれも実現できなかった技術だったんです。問題は摩擦です。金属と金属が接触しながら動力を伝えるとき、どうしても摩擦が生じます。動力を伝えるには摩擦が不可欠なわけですが、動力のロスの原因ともなる。あるいはパーツが削り取られて摩耗したり壊れたりする。日本精工はベアリング・メーカとして、この摩擦の問題に取り組み続けているわけですが、なかでも自動車の部品は摩擦との戦いなんです。特に変速機は研究者にとって大きな課題でした。ギアを使わずに円盤とローラで変速すればいいとわかっていても、摩擦によってうまくいかない。 瀬名 摩擦が非常に大変だという問題も、おそらく素人でもすぐにわかる。非常にわかりやすいけれども非常に難しそうだとは、おそらく一瞬でわかる。けれども、もちろんどうやればその問題が解決するのかは見当もつきません。町田さんのような工学者は「これは粘り強くやればなんとかなりそうだ」とか「あの技術でなんとかなりそうだ」とわかるものなのですか。ハーフトロイダルCVTの研究開発には多くの人が挫折した。ところが、町田さんはそこで粘り強くできたわけですよね。その違いがなんなのかが、実は非常に不思議なんです。 町田 なんでしょうね。まあ、ラッキーでしたよ。99%まで論理を積み上げればできるといったタイプのものではなかった。逆に論理を追ってできる研究開発は簡単なんです。ハーフトロイダルCVTには既成の論理以上のものが必要でした。 瀬名 論理以上のものとはなんですか。 町田 ある意味でパッションといっていいかもしれません。パッションで問題をしっかり解いていくしかなかった。ただ、目標に向かって線が引けるか。道筋が、仮説が立てられるか。仮説が立てられないとだめだったでしょうね。仮説を立てる力というのは知識の積み上げではありません。逆にいうと、知識がありすぎると仮説が立てにくいんです。知らないがゆえに仮説が立てられる。そういうことってあると思います。 瀬名 なるほど、パッションですか。 町田 そうすると、人も動いてくれるんですよ。こちらの仮説に興味を持って、やってみようと思ってくれるわけです。ハーフトロイダルCVTといっても、例えば潤滑油なら出光興産さんとか、実際に自動車に搭載するとなったら日産自動車さんとか、さまざまなメーカの技術者や研究者の力が必要となる。その人たちに「世界ではじめての技術を作り上げるためのこのような仮説がある。この実現のためにあなたたちの知識がいるんだ」とわかってもらわなくてはならない。わかってくれたら、みんな参加してくれますよ。チャレンジすべきテーマとして、これ以上のものはないわけですからね。 限界を突破するおもしろさ瀬名 なにか新しいものを作り上げようとしたとき、問題点はものすごくたくさんあります。ハーフトロイダルCVTもそうだったはずです。問題点をひとつずつ塗りつぶしていかれたんだと思うんですけれど、そのポイントを見つけるに至る切っ掛けとかはあったのでしょうか。 町田 ポイントを見つけるまで探すしかありませんよ。まあ、ただただ延々とやり続けるしかないんです。だから21年もかかった(笑)。「どうしてかな、どうしてかな」と疑問を持ち続けて、わからないところはその分野の専門家に聞く。根気はいりますよ。私は結構、気が短い人間なんです。それなのにどうしてこだわり続けられたのかというと、気が短いからこそ問題を解決しないで済ますことができない。疑問をそのままにしておけないから絶対に問題を解決しちゃう。それだけなんですよね。円盤が割れる、折れちゃう。どうして厚さ1センチもある鉄の円盤が割れるのか。どんどん追いかけていく。材料の専門家に聞くと不純物が原因だという。今度は徹底して不純物をなくしちゃうことを考える。そしてとうとう不純物を排除した世界最高純度の鉄を実現しました。この連続なんですよ、すべて。 瀬名 ひとつひとつの問題点をそうやってつぶしていったわけですね。 町田 ええ。例えば、鉄の応力の問題にぶち当たる。鉄の専門家は「鉄の応力には限界がある。鉄応力の限界値はいくつだから、そんなことは無理だ」という。だからといってあきらめたら技術が完成しない。そこで「その限界はどうしやって決められたんですか」と聞くと「だれそれの論文にこう書いてあって、常識となっている」なんていう。そこで終わりにすればそれ以上のものはないわけです。ぼくは「それじゃあ、その数値をクリアすればいいんだな」と考えるタイプなんですよ。 瀬名 それはすごく納得できますね。 町田 とにかく「町田は変なことをやる」って、みんなにいわれました。私がいかに変なことをやったか、変なものを作ったかをまとめた若手研究者向けの研修会資料があるほどです(笑)。こんなこともありました。トランスミッションを自分で作らなければならない。鋳物で作るのは大変なんで自分たちで削っちゃおうってことになったんです。丸棒からトランスミッションを削り出しちゃったんです。アルミ総削りの形成ですね。アルミってものすごく高いのに、丸棒から9割も削った。協力してくれた工場の人に「町田さん、切り粉どうします」っていわれたので「いらないよ」っていったら、切り粉を売って、そのお金で一杯飲めた(笑)。あと、あるベアリングなんですが、当社のカタログで最高回転数が500回転と決められていたんですよ。それを1万回転にしたこともあります。 瀬名 500回転と1万回転では全然違いますね。 町田 技術役員が集まっている会議で「このベアリングは1万回転させなければいけない」と研究成果を発表したんです。「当社の規定では500回転と決まってるじゃないか。お前は非常識だ」といわれましたよ。今は楽勝で1万回転、いや、それ以上いけます。結局、限界を超えていくことが自分にとっておもしろいんですよ。
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