6G次世代通信に向けたテラヘルツ波の高度な制御技術

~THz波の透過性と位相を変えられるメタマテリアルを開発~

2020/12/03

発表のポイント

  • メタマテリアルの電磁誘起透明化現象を微小電気機械システム(MEMS)注1 で自在に制御する技術を開発
  • テラヘルツ(THz)波の透過率、位相を電圧で制御することができる
  • 下地基板を取り除く製造方法を開発したことで、透明性の向上と不要な干渉波形の除去を実現
  • 次世代通信技術「6G」をはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティ・量子コンピューター・光LSIなど幅広い分野での応用が期待される

概要

世界ではすでに移動通信システム5Gの次の世代「6G」を見据えた研究開発が始まっており、テラヘルツ波が使用されることが明示されています。東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らのグループは、メタマテリアル注2電磁誘起透明化現象注3を微小機械で自在に制御する技術を開発し、電圧でテラヘルツ波の透過率や位相を制御することができるチューナブル・フィルターを実現しました。MEMS製造技術を用いて作られるため小型・量産性に優れ、電子回路や半導体と組み合わせてテラヘルツ波の高度な制御が可能になります。次世代通信技術「6G」をはじめ、幅広い分野での応用が期待されます。

本研究成果は、2020年11月30日付で、Scientific Reportsに掲載されました。

研究の背景

国内では第5世代(5G)移動通信システムによる商用サービスが始まりました。一方、世界ではすでに5Gの次の世代「6G」を見据えた研究開発が始まっており、テラヘルツ波が使用されることが明示されています。調整可能なテラヘルツ波用フィルターは大型・高価なものが多く、小型・安価かつ高度なテラヘルツ波制御が可能なチューナブル・フィルターの実現が課題でした。メタマテリアルは、超微細構造体で構成される人工光学物質で、これまでの電磁波操作技術の限界を打ち破る革新的な人工構造体として注目されています。本研究では、メタマテリアル構造を微小機械で可変させることで、6Gに向けた新たなチューナブル・テラヘルツ波制御技術の開発に成功しました。

研究のポイント

図1に開発したチューナブル・フィルターの基本構造の模式図を、図2に製作したメタマテリアル単位構造部の顕微鏡写真を示します。可動梁上に形成された1本の金属棒構造と、それに直角な2本の平行金属棒構造が固定梁上に形成された構造でメタマテリアル単位構造が構成されます。金属には金が使われています。このメタマテリアル単位構造が2次元配列されています。静電気で駆動するMEMSアクチュエータに電圧を印可することで、静電引力によって可動梁上の金属棒が移動して固定梁上の平行金属棒に近づくため、共振周波数付近でのテラヘルツ波の透過率、位相が大幅に変わります。印可電圧を精密に調整することで、テラヘルツ波の特性を制御できます。また、メタマテリアル直下の基板が取り除かれているため、従来技術の問題であった基板の影響による透過率の低下や不要な干渉波形の発生を解消し、透明性の向上と不要な干渉波形の除去を実現しました。周波数1.832 THzのテラヘルツ波に対して、印可電圧に応じて透過率を38.8%の変調範囲で変えることに成功し、位相を25.3~47.8°の範囲で制御可能なことが示されました。

波及効果

MEMS製造技術を用いて作られるため小型・量産性に優れ、電子回路や半導体と組み合わせてテラヘルツ波の高度な制御が可能になります。これらの利点を活かし、6Gの通信技術をはじめ、医療・バイオ・農業・食品・環境・セキュリティなど幅広い分野での応用が期待されます。また、電磁誘起透明化メタマテリル注4スローライト注4ストップライト注4を作り出すことができる特有なメタマテリアルとして注目されており、電磁誘起透明化現象を動的に制御できる本研究成果の技術は、量子コンピューターや光LSIを実現するための光メモリや光バッファとしての応用も大いに期待されます。


図1 開発したチューナブル・フィルターの基本構造の模式図

図2 製作したメタマテリアル単位構造部の顕微鏡写真

論文情報

タイトル: Actively tunable THz filter based on an electromagnetically induced transparency analog hybridized with a MEMS metamaterial
著者名: Ying Huang, Kenta Nakamura, Yuma Takida, Hiroaki Minamide, Kazuhiro Hane, and Yoshiaki Kanamori
DOI: 10.1038/s41598-020-77922-1

用語説明

注1 MEMS

Micro electromechanical systemsの略称。半導体微細加工技術を用いて製作された立体構造や可動構造を機械要素部品として作られたセンサ・アクチュエータと、電子回路等を集積化した微小電気機械システム。

注2 メタマテリアル

対象とする電磁波の波長より小さな単位構造で構成され、自然界には無いような電磁波応答を示す人工光学物質。空間的な局在電場モード(光の状態密度)を自在に設計し得る最小の光共振器とも言え、電磁波の応答特性は主にメタマテリアルの形状で決まる。負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズなどの実現可能性が示されている。

注3 電磁誘起透明化現象

量子干渉効果により吸収帯の中に狭い透過窓が生じる現象。

注4 電磁誘起透明化メタマテリアル, スローライト, ストップライト

擬似的な電磁誘起透明化現象が発現するメタマテリアル。電磁誘起透明化メタマテリアルは放射損失が少なく、実用的なメタマテリアルとして期待されている。電磁波の速度を遅くするスローライトや電磁波をメタマテリアル中で止めるストップライト技術への応用、極薄の位相制御素子や偏光制御フィルターへの応用が提案されている。

お問合せ先

東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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