接着剤無しでCFRP/チタン合金の高強度接合を実現

- 金属3D造形による金属表面構造制御により界面はく離を抑制 -

2022/05/26

【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科機械機能創成専攻 准教授 水谷 正義
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 3D積層造形した金属基板に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)(注1)を直接圧着した接合体を作製し、従来の接着剤による接合と同等以上のせん断接着強度(20.6 MPa)を実現
  • 金属基板の表面に円柱状突起を3D造形することで、CFRPへ効率的にせん断荷重を伝達させ、せん断接着強度が向上することを実証
  • アディティブマニュファクチャリング(注2)技術を活用した異種材料の直接接合の実用化展開が期待

概要

航空宇宙産業では、生産規模の適性からアディティブマニュファクチャリング(AM)に注目が集まっています。とくに、構造部材軽量化を実現しAMの付加価値を高めるには、3D積層造形技術を利用した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)と金属とのマルチマテリアル化(注3)が重要な課題となります。

東北大学大学院工学研究科の白須圭一准教授、水谷正義准教授、同流体科学研究所の大林茂教授らと株式会社ジャムコの共同研究グループは、金属3Dプリンタを用いてCFRPへ効率的にせん断荷重を伝達できるような円柱状の突起を有する表面構造を造形し、これにCFRPを熱プレスして直接接合することで、現行の接着剤接合と同等以上のせん断接着強度を発現させることに成功しました。これにより、組み合わせるCFRPの特性等の諸条件を考慮した金属表面構造の最適化を図ることで、将来的に直接接合の実用化への展開が期待されます。

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の先導研究プログラム「航空分野における現行接合以上の信頼性を達成するマルチマテリアル3D接合・最適成形技術の開発」の成果であり、2022年5月10日に学術専門誌「International Journal of Adhesion and Adhesives」に掲載されました。

詳細な説明

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの新規素材の開発により、自動車や航空機といった輸送機のマルチマテリアル化が進んでいます。例えば航空機においては、軽量化のためのCFRPだけでなく,ガラス繊維強化プラスチック、アルミニウム合金、チタン合金といった様々な材料も利用されています。近年では、フレキシブルな部品製造を念頭に3D積層造形技術を用いたアディティブマニュファクチャリング(AM)への関心が高まっており、今後、3Dプリンタを用いた金属、樹脂、さらには複合材料の3D造形によって、様々な材料の組み合わせによるマルチマテリアル化が進むものと考えられます。

本研究では、AMを活用した金属(チタン合金)とCFRPのマルチマテリアル化に向けて、3D造形したチタン合金板とCFRP板の間にCFRPプリプレグ(注4)を挿入し、加熱しながら圧着することでCFRP/チタン合金からなる接合材の作製に成功しました。チタン合金板の3D造形にはSelective Laser Melting(注5)方式(SLM)を採用し、圧着したCFRPへ効率的にせん断荷重を伝達できるように基板表面に円柱状の突起を造形しました。CFRPの圧着時に円柱状突起間にCFRPが食い込むことによりCFRP/チタン合金界面での破断(界面はく離)が抑制され、市販のチタン合金板にCFRPを圧着した接合体に比べてせん断接着強度が64%向上しました。また、当該接合体のせん断接着強度は、従来の接着剤のせん断接着強度と同等以上(20.6 MPa)であり、実用に資するせん断接着強度を有していることも認められました。

本成果を活用しながら組み合わせるCFRPの形状や特性に合わせて金属表面構造を最適化することで、将来的に実用部材のマルチマテリアル化実現が期待されます。さらに、今後の展望として、金属を予め3D造形し、その後の工程としてCFRPなどの複合材料を3D造形したようなマルチマテリアルAM技術の開発を目指しています。本技術の適用により、意匠性にも富んだフレキシブルかつ素材の特性を活かした製品製造が可能になるだけでなく、大幅な軽量化が進み、部材の切削加工量や機器のエネルギー消費量の削減、ひいてはCO2排出量の大幅な削減に貢献できると期待されます。

謝辞

本成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP14004)の結果得られたものです。

論文情報

タイトル: Lap-shear strength and fracture behavior of CFRP/3D-printed titanium alloy adhesive joint prepared by hot-press-aided co-bonding
著者: Keiichi Shirasu, Masayoshi Mizutani, Naoki Takano, Hajime Yoshinaga, Tsuyoshi Oguri, Ken-ichi Ogawa, Tomonaga Okabe and Shigeru Obayashi
掲載誌: International Journal of Adhesion and Adhesives
DOI: 10.1016/j.ijadhadh.2022.103169
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0143749622000860

用語説明

(注1)炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic: CFRP)

強化材である炭素繊維と母材樹脂(熱硬化性樹脂)によって構成される軽量かつ高剛性・高強度な複合材料の一種。

(注2)アディティブマニュファクチャリング(AM)

従来の材料を切削などで除去して部材を製造する方法に対し、材料を積層あるいは付加して製造する方法。3Dプリンタによる造形も含まれる。

(注3)マルチマテリアル化

異なる機能や特性を有する材料を適材適所で組み合わせて、部材の高機能化、多機能化を図ること。

(注4)CFRPプリプレグ

炭素繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の中間材料。加熱することで熱硬化性樹脂が硬化し、CFRPが成形される。

(注5)Selective Laser Melting(レーザ溶融法)

積層造形法の一つ。平坦に敷き詰めた金属粉末対してレーザを熱源として一層ずつ溶融・固着しながら積層していく方式。


図:実験結果の概要
金属3D造形したチタン合金にCFRPを圧着した試験片のせん断接着強度試験(ラップシェア試験)を実施した。円柱状突起を造形した場合にはCFRPが突起に食い込むことにより界面はく離が抑制され、CFRPが破断するまで荷重を負担した。その結果、接着剤と同等以上のせん断接着強度が発現した。

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 機械機能創成専攻 准教授 水谷 正義
TEL:022-795-6946
E-mail:masayoshi.mizutani.b6@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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