O2タンク内蔵!ウォータープルーフ仕様のバイオ発電パッチを開発
2022/08/22
発表のポイント
- 糖(グルコース)と酸素ガス(O2)から発電するバイオ発電パッチが水中でも駆動
- O2還元カソード電極にO2透過性の防水フィルムを一体化し、接合部にO2タンクとして働く微小スペース(~10 µL/cm2)を形成
- 水中で10倍以上長く発電を維持し、タンクのO2が尽きても、水から取り出せば数10秒で再充填され発電性能が回復
概要
皮膚へのマイクロ通電には、傷の治癒促進や鎮痛および薬剤浸透(美容・医療)などの効果があります。東北大学大学院工学研究科および高等研究機構新領域創成部の西澤松彦教授のグループは、糖(グルコース)とO2から発電する酵素電池を搭載した、柔らかくて安全なオール有機物のバイオ発電パッチの開発に成功し[1]、製品化に向けて、美容モニタリングや治験などを進めています。
今回、バイオ発電パッチのO2還元カソードに微小スペース(O2タンク)を形成し、水中での発電維持を可能にしました。具体的には、O2還元カソードにシリコーンゴム(PDMS)の薄膜と電極(炭素繊維布)を接点接着で一体化し、皮膚貼付時の変位に追従する機械強度と、微小スペースのアレイ形成を両立しました。微小スペースがO22タンク(~10 µL/cm2)として働き、水中での発電量が10倍以上に増大しました。タンクのO2が尽きても、水から取り出せば数10秒でO2が再充填され発電性能が回復します。この新構造のカソードの実装によって、水仕事や入浴の最中にもバイオ発電パッチを継続して使用可能になると期待できます。
本成果は、2022年8月21日に科学誌Journal of Power Sourcesで公開されました。
研究の背景
経皮マイクロ電流を発生する皮膚パッチは、傷の治癒促進や鎮痛および薬剤浸透(美容・医療)などの目的で広く研究されています。糖(グルコース)とO2から発電する酵素バイオ電池を電源として搭載すると、オール有機物の使い切りのバイオ発電パッチが実現し、医療・美容分野のセルフケアの魅力的なツールになります(図1)。
バイオ発電パッチのカソードにおけるO2の還元反応は、気相・液相・固相が接する三相界面注1で効率よく進行するので、安定な発電を長時間維持するためには、パッチ内部の水分の適量維持と、O2ガスのスムーズな供給が必要です。従来のバイオ発電パッチのカソードは、O2ガスを含む大気に露出していました。そのため水中では、水に溶けた低濃度O2が反応する二相界面となり、発電性能が大きく低下してしまいました。カソードにおける内部からの水分蒸発と外部からの水分浸入を、発電性能を損なうことなく防止できれば、台所や風呂場などを含めて、日常生活におけるバイオ発電パッチの利用シーンの拡大に有効です。
詳細な説明
O2還元カソード(ビリルビンオキシダーゼを炭素繊維布に固定化)の表面に、酸素透過性の高いシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン、PDMS)の薄膜(厚さ50 µm)を接合しました。接着にもPDMSを用い、その塗布量の最適化によって、図2aに示す微小スペースのアレイを接合部に形成させることができました。この接合構造は、皮膚貼付時の変位に追従する柔軟性と強度を有しています。微小スペースの面積は約0.4 mm2で、200個/cm2程度の密度で配列しており、電極面積1 cm2当たりのスペース体積は~10 µL と見積もられます。
PDMS薄膜はパッチ内部からの水分蒸発を防止し、指に巻いた状態で、3時間以上安定に発電が続くようになりました。一方、微小スペースは、カソード電極へO2を供給するタンクとして働くと期待できます。図2bに示す実験では、カソードを水に浸して、人間の皮膚が痛みを感じない最大の電流(0.5 mA/cm2)を流した時の電極電位の経時変化を測定しました。PDMS薄膜が無いカソードでは、水に入れると三相界面の崩壊による性能低下(電位低下)が発生しました(黒線)。一方、ウォータープルーフ仕様のカソードでは、約200秒間0.5 V付近の電位を維持し、従来より10倍程長く発電を維持できることが分かりました(青線)。パッチ使用時の電流値は数10µA程度の場合が多く、その際には発電の維持時間が1時間を超えると予想できます。図2cの実験は、電極電位0.5Vで測定したO2還元電流値です。水中で低下した電流値が、水から取り出した数10秒後には、PDMS薄膜を通したO2の再充填によって0.7 mA/cm2程度に回復しました。このO2再充填が連続して繰り返し行えることも示されています。
今後の展開
本研究で開発した新構造のO2カソードを実装することによって、傷の治癒促進や鎮痛および薬剤浸透(美容・医療)に効果を有するバイオ発電パッチが、水仕事や入浴の最中にも継続して使用可能になります。さらに、口腔内や体内で利用するバイオ発電デバイスの開発にもつながると期待できます。
付記
本研究は、東北大学新領域創成のための挑戦研究デュオ(FRiD)、科学研究費補助金基盤S(22H04956)、およびJST A-STEP産学共同 (JPMJTR20UJ)の支援のもとで行われました。
論文情報
著者: Daigo Terutsuki, Kohei Okuyama, Haoyu Zhang, Hiroya Abe, Matsuhiko Nishizawa
掲載誌: Journal of Power Sources, 546 (2022) 231945.
DOI: 10.1016/j.jpowsour.2022.231945
URL: https://doi.org/10.1016/j.jpowsour.2022.231945
用語説明
(注1)三相界面
3相(気相、液相、固相)が接した状況の総称であり、本研究のカソードにおいては、酵素電極(固相)、電解液(液相)、空気(気相)の三相界面において空気中のO2が効率よく還元される。
参考情報
[1] オール有機物のバイオ発電スキンパッチが完成
東北大学プレスリリース 2020年1月29日
Totally Organic Electrical Skin Patch Powered by Flexible Biobattery
S. Yoshida, H. Abe, Y. Abe, S. Kusama, K. Tsukada, R. Komatsubara, M. Nishizawa
J. Phys. Energy 2 (2020) 044004. DOI: 10.1088/2515-7655/abb873
お問合せ先
東北大学 大学院工学研究科 ファインメカニクス専攻 助教 照月 大悟
TEL:022-795-3586
E-mail:daigo.terutsuki.a7@tohoku.ac.jp