国立応用科学院リヨン校INSA-Lyon (フランス リヨン)
2012年3月10日~2012年5月11日(63日間)
「私が学生だった頃、大学や研究室に在籍する留学生の数はそんな多いものではなかったと記憶しています。しかし、近年では東北大学が取り組む『グローバル30』※1などのプログラムや、研究者間の交流を活性化することを目的とした各種事業などにより、国際的な人的交流が非常に盛んになってきました。そうした国際交流がもたらしてくれる成果として、視野が広がった、新しい視座を獲得できた…ということが挙げられます。私も短期間ながら、海外の研究室に実際に身を置くことで、新しい発見や多くの気付きがありました」と阿部先生。「本学での研究は、常に“世界”というフィールドに開いていくことが求められますが、学生さんのなかには秀でた研究成果を伴っているにもかかわらず、海外の大学や研究者に対する気後れ感のようなものを抱いてしまうことがあるようです。これは私が接した限りですが、海外の学生さんは、まだ実績のない自身の研究テーマに関しても、その背景・意義、将来性などについて、実に堂々と自信をもって説明するのです。海外インターンシップや留学を経験している人も多く、外部への発信力は、一日の長があるという印象でしたね。ひいき目を差し引いても、日本のほうが優れている点が多々あるのに、非常に残念だと思いました」、これは言語を含めたコミュニケーション力に起因するところが大きいと分析する阿部先生、海外派遣後はその向上を意識した指導を始めたことは言うまでもありません。
海外の大学や研究室に目を向けるためには、共同研究も大きな好機となることでしょう。「本学は、2008年にフランスの理工系グランゼコールの国立中央理工科大学院リヨン校ならびに国立応用科学院リヨン校(INSA-Lyon)との間にジョイント・ラボラトリー※2を設置しています。私が所属する渡辺研究室ではINSA-Lyon、MATEISのB. Normand教授らの研究グループと共に、応力腐食割れ(stress corrosion cracking:以下SCC)の理解と制御に向けた研究を進めています〔Understanding and Managing SCC〕。今回の海外派遣では、前言の研究パートナーであるB. Normand教授の元で、共同研究テーマ『Compositional design for improved SCC resistance of Ni base alloys based on understanding SCC mechanism of Cr effect on passivative phenomena』に関する実験・議論を行うこととしました」。
ここで阿部先生の研究の背景をご説明いただきましょう。「軽水炉構造材料に出現するSCCは、構造の健全性を確保する上で最も注視しなければならない経年劣化事象のひとつですが、材料、環境、力学などの多様な因子が結びついた非常に複雑な現象であることから、メカニズムにはいまだに不明な点も多いのです」。劣化の仕組みが詳らかになっていない状況で、これまでどのように対応してきたのでしょうか。「従来、プラントにおいてSCC問題が現れた場合、その都度、有効と思われる対策材の開発により対応されてきました。いわば泥縄的な手立てが講じられてきたというわけです。こうした対策材は、すでにある規格材からの選択や、それらの成分を微調整するといったことになりがちで、系統的なデータ取得とメカニズム検討に基づいた最適組成の知識基盤が必ずしも完備されていません」。軽水炉の一層の安全性向上のためには、SCCのメカニズム研究と、それに基づく新しい構造用合金の開発が強く求められているのです。
本サイトに掲載されている個人情報は、本人の了解のもとに本サイトに限り公開しているものです。よって第三者がそれらの個人情報を別の目的で使用することや、本サイトの無断転載は固くお断りいたします。