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派遣研究者REPORT

どこにいるのか、その先に何があるのか。
未知の屋外環境を、
賢くスムーズに移動するロボットの開発を。

CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation:
オーストラリア連邦科学産業研究機構)(オーストラリア ブリスベン)
ミュンヘン工科大学(ドイツ ミュンヘン)
2012年7月28日~2012年10月14日(79日間)

研究テーマを急きょUWBセンサに変更。
可能性を探究するチャレンジングな試み。

今回の海外派遣で、スーパーバイザーとして細やかなサポートをしてくれたDr. Alberto Elfes(写真/図1)。「面識はないのですが、実はよく存じ上げているのです」と何やら意味深長な話を始めた竹内先生。「我々は学部4年生になって初めて本格的な研究に着手するわけですが、私は先行研究の延長上ではなく、新規で画期的かつ独創的なテーマにチャレンジしたいと思いました。志と意気は非常に高かったわけですね(笑)。そうして苦心の果てにある方法論を導き出し、得々と指導教員に提出しました。先生はニヤリと笑っておられたように記憶しています」。それから1年後、授業で渡された資料の中に竹内先生の研究と同じアイデアが! 「私が取り組んだものと同様の発想で、はるかに完成度の高い研究がすでに10年前、論文として発表されていたのです。もちろん先生はそれをご存知だったんですね。でも、あえて指摘せずに、私の意欲とプロセスを評価してくださったわけです。それを書いたのが誰あろうDr. Alberto Elfesその人だったというわけです(笑)」。Dr. Elfesは占有度グリッドマップの論文で世界的に知られており、近年SLAM※1などで応用されています。

現在、竹内先生が手掛けるのは、未知の物体や状況が存在する屋外環境を移動するフィールドロボット。「たとえば生産ラインで使われる産業用ロボットのようにあらかじめプログラムされ、環境が整備されたなかで、決まった動きをするものとは設計思想が異なるロボットです。何があるのかわからないような初めての場所を移動するには、その土地の形状や置かれている状況をセンシングする技術が必要になります。私はロボットの移動を助ける地図生成、レーザースキャナーやGPSによる位置推定手法、3次元計測による障害物の回避、といった研究開発を行っています」。
 一方、CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation:オーストラリア連邦科学産業研究機構)内に組織されているAutonomous System Lab(以下ASLab)では、産業応用を視野に置き、オーストラリア大陸内での空、陸、水中、地中等のさまざまな環境を対象としたフィールドロボティクスの研究開発を担っています。「オーストラリアは、60種以上の鉱物を産出し、世界各国に輸出している資源大国です。掘削現場といった人間にとって負担の大きい労働環境で働くロボットなど、需要が研究に直結しているという背景もあると思います」。竹内先生は今回の滞在により、ASLabを始めとするオーストラリア内の研究者との交流を通し、実環境でロボット動かす上で重要となる技術や理論について議論を深めると共に、これまで日本に限られていた実験環境をより多様なフィールドに広げ、課題の発見ならびに改良を行うことを目的としました。

ところが滞在2週間を過ぎたころ、Dr. Elfesから電波で環境を計測するUWBセンサの研究に興味はないかと、と打診されます。「UWBとはUltra Wide Band、超広帯域無線と呼ばれる無線通信の方式のひとつで、データを1GHz程度の極めて広い周波数帯に拡散して送受信を行うものです。位置測定、レーダー、無線通信の3つの機能を合わせ持っており、極めて独特な無線応用技術といえます。UWBセンサはレーザースキャナー等と異なりGHz帯の電波を用いるため、強い直進性がありながら、物体内を貫通するため、煙や草むら内での障害物検知や、壁の向こう側の物体のイメージングなどが可能となり、極限環境でのセンシングに期待が持てます。Dr. Elfesとのディスカッションの結果、研究の方向性としては移動ロボットとUWBセンサを合わせ、新しい可能性を検討することとしました」。想定外の新規研究テーマへ。そこは知的好奇心を刺激するフィールドでした。

※1
Simultaneous Localization and Mapping ;SLAM(スラム)。自己位置推定と環境地図作成を同時に行う技術。SLAMを応用している身近な製品としてロボット掃除機などがある。

(写真/図1)右がスーパーバイザーのDr. Alberto Elfes。「多忙にもかかわらず、毎週のようにディスカッションに応じ、私の拙い英語にも辛抱強く付き合ってくださいました」。

(写真/図2)9月29日からはドイツに1週間滞在し、ミュンヘン工科大学のProf. Martin Bussの研究室で公道の自律移動および人間-ロボットインタラクションに関する研究の議論を深めるとともに、現地研究者との交流を図った。写真は、同大の施設。