ものづくりのフロンティアをゆく!

TOPICS1

宇宙から、
ふしぎな発光現象・
スプライトのナゾに迫る!

東北大学の英知を注いだ衛星開発、
SPRITE-SATが、相乗りで宇宙へ。
教員と学生の手によって開発された
東北大学製の小型衛星、宇宙へ。

 2009年1月23日、種子島宇宙センターからJAXA※1の温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)を載せたH-IIAロケット15号機が打ち上げられました。その発射の様子を万感の思いで見つめていたのは、「スプライト観測衛星(以下、SPRITE-SAT)」の開発・運用スタッフたち。H-IIAロケット15号機の“相乗り衛星(小型副衛星)”として、東北大学大学院理学研究科と工学研究科の教員・学生が共同で開発を進めてきたSPRITE-SATが宇宙へと旅立ったのです。切り離された後は、予定通り地球周回軌道に投入され、「雷神」(RISING:上昇)という愛称が付けられました。

 この相乗りプロジェクトは、絞り込んだシャープなミッション(先端的な科学現象の観測など)を目的として、大学や民間企業等が低コスト・短期間で開発した小型衛星に、JAXAが打ち上げ・運用機会を提供するもので、公募により6機が選ばれました。SPRITE-SATの開発期間は、わずか1年半で、予算は1億円という科学衛星としては破格の低予算。経験豊富な専門家のアドバイスを受けながらも、衛星の組み立てや種々の試験は学生が主役となって進めてきました。Project-based Education(プロジェクトに参加しながら実践的に問題解決能力などを学ぶ教育課程)としても注目すべき取り組みです。

小さな体に大きな任務。世界初の試みにチャレンジ。

 SPRITE-SATは、全面が太陽電池パネルで覆われた一辺が約50センチメートルの立方体で、重量は約50キログラム。小柄な体ですが、中身のあるミッションを果たすには十分な、小型衛星のスタンダードな大きさです。その任務とは、どちらも世界初の試みといわれる、落雷に伴う高層大気発光現象「スプライト」の観測と、地球の雷雲起源のガンマ線放射と落雷の同時観測です。妖精(Sprite)と名づけられた中層・超高層大気における発光現象は、今から20年前に発見されましたが、その発生メカニズムはいまだ謎に包まれています。近年、いくつかの国で観測用の衛星打ち上げが計画されており、中でもSPRITE-SATがいち早く宇宙に飛びだすことになります。宇宙空間では、真下に見下ろすように観測し、世界に先駆けてその正体に迫ろうとしています。また、近年、地表付近でガンマ線が発生していることが観測され、雷やスプライトなどの高エネルギー発光現象との関係性が指摘されています。SPRITE-SATは、雷、スプライトとガンマ線を同時に観測することにより、地球起源のガンマ線放射の謎に解明に近づくことを目的とします。

 自然に対する畏敬の念を込めて信仰される雷の神様、雷神。菅原道真は死して天神(雷神)になったとも伝えられます。上空700キロメートルの極軌道※2をまわるSPRITE-SAT“雷神”は、科学の目でみる雷の姿を私たちに届けてくれることでしょう※3

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写真提供:三菱重工業

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落雷が発生する時、その上空の高度40~90kmの高層大気中で発生している発光現象「スプライト」を、真上から観測します。SPRITE-SAT軌道上の想像図。

写真04

SPRITE-SAT は「いぶき」「小型実証衛星1型」のJAXA組に続いて、H-IIAロケット15号機から分離されました。

写真05

打ち上げに先立って、中学生以下の児童を対象に「宇宙に届けたいわたしの思い・夢」と題したメッセージと「わたしが描く宇宙」をテーマにした絵画を公募。応募のあった1022件のメッセージすべてと、絵画の入賞作品(と応募者全員の氏名)、さらに世界のアーティストの作品40点を、26ミリメートル×60ミリメートルのシリコンプレートに焼き付け、SPRITE-SATへと搭載しました。1文字の大きさは、なんと約100ミクロン。東北大学ナノテク融合技術支援センターの技術協力により製作されました。


※さらに詳しい内容については、ウェブサイトをご覧ください。
http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/SPRITE-SAT/

※1
独立行政法人宇宙航空研究開発機構。Japan Aerospace eXploration Agency, JAXA(ジャクサ)。日本の航空宇宙開発政策を担う研究・開発機関。
※2
きょくきどう。軌道傾斜角が90°、もしくはこれに近い角度の軌道のこと。つまり、北極と南極の上空を交互に通る軌道。この軌道を周回する間に地球は自転するので、地球全体を観測するのに向いている。
※3
SPRITE-SAT“雷神”は初期性能の確認には成功したものの、電源系に不具合が生じ、2009年3月現在、スプライトおよびガンマ線の観測には至っておりません。開発チームでは衛星の監視を続けつつ、不具合原因の対策を施した2号機の開発を進めています。

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