メタマテリアルで遮熱効果と5G/6G用電波の透過を兼ね備える透明な窓を開発

- 猛暑での室内や車内でエアコンの消費電力削減に期待 -

2023/10/16

【工学研究科研究者情報】
〇大学院工学研究科ロボティクス専攻 教授 金森 義明
研究室ウェブページ

発表のポイント

  • 可視波長を透過するが大気の温度を高める近赤外波長は反射し、5G/6G(注1)通信帯の電波を透過する遮熱窓を開発しました。
  • 可視光、近赤外光、5G/6G通信電波という波長帯の異なる電磁波の反射・透過を同時に制御できるメタマテリアル(注2)の設計と製作に成功しました。
  • 建材・自動車用遮熱窓への応用により、室内や車内での熱中症の発症や夏季の電力需給の逼迫などの社会課題の解決が期待されます。

概要

カーボンニュートラルを目指し、日本や欧州を含む先進国では環境規制が強化され、さらなる省エネルギー対策が求められています。一方、地球温暖化による気温上昇が世界各地でみられ、特に夏季には室内空調のためますます電力が多く消費される傾向にあります。解決策の一つとして、建物や車等の窓に遮熱機能をもたせることが考えられますが、一般的に普及している遮熱ガラスは5G/6G通信帯の電波を遮断するため無線でのスマホやパソコンの利用に影響が出るという課題があります。

東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らの研究グループは、ナノメートルサイズの周期構造で構成されるアルミ製遮熱メタマテリアルを開発し、熱となる近赤外波長は反射するが5G/6G通信帯の電波(可視波長)は透過する、透明な遮熱窓の基材を作製することに成功しました。

建材・自動車遮熱窓への応用により、室内や車内温度の上昇による熱中症の発症、夏季の電力需給の逼迫などの社会課題解決への貢献に期待できます。昨年、設置した国内初のメタマテリアルを専門とする研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」(注3)を基盤に実装化に向け、研究をさらに加速させていきます。

本研究成果は、2023年9月25日付で、米国光学会誌Applied Opticsに掲載され、Editor's Pickに選ばれました。

研究の背景

カーボンニュートラルを目指し、日本や欧州を含む先進国では環境規制が強化され、さらなる省エネルギー対策が求められています。一方、地球温暖化による気温上昇が世界各地でみられ、特に夏季には室内空調のため多くの電力が消費される傾向にあります。解決策の一つとして、建物や車等の窓に遮熱機能をもたせることが考えられますが、一般的に普及している遮熱ガラスは5G/6G通信帯の電波を遮断するという課題があります。

夏の暑い日には、太陽光のエネルギーが窓を通過することで室内や車内温度が上昇します。太陽光は一般に波長 800~1400nmの近赤外領域のエネルギーが大きいため、近赤外領域の波長を選択的に反射する遮熱窓が開発できれば、エアコン等の消費電力量が削減されるとともに、室内・車内温度の上昇による熱中症の発症などの課題解決の一助になることが期待されます。また、現代社会において欠かせない5G/6G通信の電波を透過する性能も不可欠です。

従来の金属薄膜や透明導電膜を使った遮熱窓は、中赤外線~遠赤外線の波長を強く反射できても近赤外線に対する反射率は低い、または5G/6G通信の電波も反射して遮断してしまう問題がありました。また、金属微粒子を使った遮熱窓は近赤外線を選択的に反射(最大反射率50%程度)できますが、より高い反射率特性が必要でした。

今回の取り組み

東北大学大学院工学研究科の金森義明教授らの研究グループは、ナノ周期構造で構成されるアルミ製遮熱メタマテリアルを開発し、ガラス等の窓表面に形成することで、熱となる近赤外波長は反射するが5G/6G通信帯の電波(可視波長)は透過する、透明な遮熱窓の基材を作製することに成功しました(図1)。図1のように平面上に形成されたメタマテリアルを、メタサーフェスとも呼びます。

図2に、作製した遮熱メタマテリアルの顕微鏡写真を示します。石英ガラス基板上にアルミからなる十字パターンのメタマテリアル単位構造が、周期460 nmで二次元周期状に形成されています。3.3 cm×4.0 cmの領域内に、均一にメタマテリアル構造が形成されています。

図3に、遮熱メタマテリアルの可視波長~近赤外波長領域における反射率特性と6G通信帯における透過率特性を示します。近赤外波長(約1.1μm、周波数約273THz)において、反射率80%超が得られ、ある領域では最大反射率86.1%が得られました。この数値は、調査した文献で報告されている遮熱材料の中で最高値を示しました。また、有限要素法(注4)に基づく電磁界の数値計算結果と実験値はよく一致しています。テラヘルツ波領域における透過率特性については、テラヘルツ時間領域分光法(注5)により測定した結果、6G通信での利用が期待されている0.2~0.3THz付近の周波数において、80%程度の高い透過率が得られ、有限要素法に基づく電磁界の数値計算結果ともよく一致しました。さらに、5G通信に割り当てられている28 GHz帯の周波数において、80%程度の高い透過率が得られることを計測により確認しました。このことから、5G/6G通信帯において実用レベルの高い透過率特性が得られることを実証しました。以上のことから、大気の温度を高める近赤外の周波数(約273THz)は反射して通さず、5G通信帯(28 GHz帯)/6G通信帯(0.2~0.3THz)の電波は通す特性が得られました。

図4に、遮熱メタマテリアルの可視波長領域における透過率特性と、遮熱メタマテリアル越しに撮影した風景写真を示します。作製した遮熱メタマテリアルは、可視波長範囲で最大77.2%の高い透過率を有し、60°の傾斜角度をつけても約50%以上の透過率が得られました。また、遮熱メタマテリアルの背後に映る風景を、広い傾斜角度範囲において明瞭に撮影することができ、作製した遮熱メタマテリアルは、透明遮熱窓としての使用に好適であることが実証されました。

今後の展開

開発した遮熱メタマテリアルは、半導体微細加工技術を用いて作られるため、メタマテリアルの形状や寸法を調整でき、反射ピーク波長をニーズに合わせてチューニング可能です。ナノインプリント(注6)等の技術を用いることで、将来は安価で大面積の遮熱メタマテリアルが実現できると考えられます。

本技術は、建材・自動車用遮熱窓への応用が期待され、夏季の電力需給の逼迫、室内・車内温度上昇などの社会課題の解決の一助となることが大いに期待できます。


図1 開発した透明遮熱窓の利用イメージ。遮熱メタマテリアルは、可視波長を透過し、熱となる近赤外波長を反射する特性をもつため、遮熱機能をもちながら5G/6G通信帯の電波は透過する窓に応用できる。

図2 (左)遮熱メタマテリアルの走査電子顕微鏡写真と(右)単位構造の原子間力顕微鏡写真。

図3 (左)遮熱メタマテリアルの可視波長~近赤外波長領域における反射率特性と(右)6G通信帯における透過率特性。

図4 (a)遮熱メタマテリアルの可視波長領域における透過率特性と(b)(c)遮熱メタマテリアル越しに撮影した風景写真。(b)は、遮熱メタマテリアルを傾けずに撮影(傾斜角度0°)。(c)は、遮熱メタマテリアルを傾けて撮影(傾斜角度60°)。

謝辞

本研究の一部は、JST、CREST(JPMJCR2102)の支援を受けたものです。

用語説明

(注1)5G/6G
・第5世代移動通信システム(5G通信)
2020年3月からサービスが開始された、一世代前の4Gと並ぶ現行の通信規格。4Gと比較して、高速大容量、多数同時接続、超低遅延といった特徴がある。さまざまな電子機器がネットワークに接続されるようになる。
・第6世代移動通信システム(6G通信)
現行の携帯電話で使われている 4G、5Gに続く無線通信システム。2030 年代の商用化が見込まれている。通信速度は5G の 10 倍以上の毎秒 100 ギガビット級(ギガは 10 億)が想定されている。高解像度の3D映像を触覚情報などと合わせてリアルタイムで送受信できるようになる。医療分野では遠隔での治療や診察、教育分野では臨場感のあるリモート授業が実現する。
(注2)メタマテリアル

制御の対象とする電磁波の波長より小さな単位構造で構成され、自然界にはないような電磁波応答を示す人工光学物質。空間的な局在電場モード(光の状態密度)を自在に設計し得る最小の光共振器とも言え、電磁波の応答特性は主にメタマテリアルの形状で決まる。光共振器の設計次第で実効的な屈折率を自在に制御できる。要求に応じた屈折率を持つ光学材料を設計に基づき人工的に実現でき、負の屈折率、透明マント(クローキング)、完全レンズなどの実現可能性が示されている。

(注3)研究センター「メタマテリアル研究革新拠点」

2022年6月1日設置。拠点長は東北大学大学院工学研究科 教授 金森義明。
https://web.tohoku.ac.jp/kanamori/0meta-ric/index.html

(注4)有限要素法

数値解析手法の一つ。構造物や空間を小さな要素に分割し、マクスウェル方程式で記述される電磁界を数値的に解くことができる。

(注5)テラヘルツ時間領域分光法

テラヘルツ周波数帯域における試料の透過、反射スペクトルを測ることができる分光法の一つ。テラヘルツ波の波形を試料に入射させ、その透過、反射波の電場の時間波形をフーリエ変換し、電磁波のスペクトルを得る分光法である。

(注6)ナノインプリント

微細パターン転写技術の一つ。微細な凹凸構造が形成された金型を樹脂に押し付けてパターンを樹脂に転写することで、微細凹凸構造を一括形成することができる。安価かつ大面積にナノ構造を形成可能な技術として期待されている。

論文情報

タイトル: Fabrication of functional metamaterials for applications in heat-shielding windows and 6G communications
著者: Minh Van Nguyen, Taiyu Okatani, and Yoshiaki Kanamori*
*責任著者: 東北大学大学院工学研究科 教授 金森 義明
掲載誌: Applied Optics Vol. 62, No. 28, pp. 7411-7419 (2023)
DOI: 10.1364/AO.497886

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 ロボティクス専攻 教授 金森 義明
TEL:022-795-4893
E-mail:ykanamori@tohoku.ac.jp
< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp
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