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派遣研究者REPORT

日進月歩のスーパーコンピュータ。
その優れた性能を
計算科学に生かし切るための
HPCコードの並列化・最適化に挑む。

ドイツシミュレーション科学研究大学院 (ドイツ アーヘン)
2011年8月1日~2011年10月10日(71日間)

理論・実験と並ぶ、
現代科学躍進の原動力「計算機シミュレーション」

“スーパーコンピュータ”と言えば、性能に関する国際競争がしばしば話題になります。コンピュータシステムを評価する「TOP500ランキング」では、年に2回、世界で最も高速なコンピュータの上位500台を発表しています。2012年上半期は、米国のセコイア(開発:IBM)がトップに躍り出ましたが、2011年は日本のスーパーコンピュータ「京(けい)」(理化学研究所と富士通(株)の共同開発)の独擅場でした。スーパーコンピュータは、高度な演算を必要とするタスクに使用され、宇宙開発、核融合などのビッグサイエンスのみならず、医療診断、新薬の開発、新素材開発、自動車・航空機開発など産業界の製品開発、ヒートアイランドなどの環境アセスメント、自然災害予測など、様々な分野で導入されています。こうした「計算機シミュレーション」に基づく計算科学は、「理論」「実験」と並ぶ「第三の方法」として、現代科学技術を大きく推進させる力となっています。

ここで江川先生に研究の背景をお話しいただきましょう。「スーパーコンピュータは、半導体加工技術とコンピュータアーキテクチャ(特にハードウェアに関する基本設計概念)の進歩によって、近年大規模化、高性能化が進み、数十万個のプロセッサから構成されています。これら数多くの計算資源を利用して、計算機シミュレーションを実現するためには、シミュレーションプログラム(以下:HPCコード)の並列化が必要となってきます。また、ベクトル型、スカラ型、アクセラレータ型に代表されるように計算資源の多様化が進んでいることから、それぞれの性能を引き出すための最適化が必要になります。将来、登場すると思われるエクサ(1018)スケールのスーパーコンピュータシステムは、実に異種複数の数百万個のコアから構成されると言われ、今後HPC コードの並列化・最適化は一層困難になることが予想されています(写真/図1)」。「スーパーコンピュータシステムの著しい進化と更新に対して、HPC コードのシステム間、システム世代間における管理・移植方法の確立が強く求められています。これまでは各計算システムに熟達した技術者によって、その都度、並列化・最適化が行われてきたため、新しいシステムに向けた移植が難しくなっています」。システム間をスムースに架橋するHPCコードの構築が待たれているのです。

今回の渡航先であるドイツシミュレーション科学研究大学院応用スーパーコンピューティング研究部門(German Research School for Simulation Sciences::以下 GRS)のRoller 教授とは、長年、研究室連携の共同研究に取り組んできた経緯があると話す江川先生。年2回、共同のワークショップも開催しており、人的交流も盛んです。「Roller 教授は、ベクトル型とスカラ型等の異種機間連携による大規模アプリケーションの開発に取り組んでおられます。もともと、 私はコンピュータアーキテクチャを専門としていますが、コンピュータはハードウェアとソフトウェアが両輪を成して初めてその性能が発揮されるものであり、私も今回の滞在を通じて最先端のシミュレーションプログラムの性能解析、並列化、最適化技術に関する知見を深めたいと考えました」。2009年、招へい研究員としてドイツのHLRS(シュトゥットガルト大学高性能計算センター)に滞在して以来二度目となる海外派遣がスタートしました。

(写真/図1)将来のエクサスケールのスーパーコンピューティングシステムは、異種のプロセッサ、計算ノードが混在するだけではなく、複雑なメモリ階層を有するといわれている。既存のソフトウェアを新しいシステムに移行し、高い実効性能を実現するためにはアプリケーションの再設計、および再開発が必要だ。

(写真/図2)GRSは、アーヘン工科大学とユーリッヒ研究所が共同で設立した計算機シミュレーション専門の大学院大学。ヨーロッパにおいて最高性能を有するスーパーコンピュータ“Eugene” を擁する。写真は、ユーリッヒにあるGRSオフィス。