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派遣研究者REPORT

日進月歩のスーパーコンピュータ。
その優れた性能を
計算科学に生かし切るための
HPCコードの並列化・最適化に挑む。

ドイツシミュレーション科学研究大学院 (ドイツ アーヘン)
2011年8月1日~2011年10月10日(71日間)

スーパーコンピュータの性能を引き出す、
計算科学者と計算機科学者の協働。

GRSでは、将来の大規模科学計算システムにおいて高い性能を担保するHPC コードの並列化・最適化に取り組むと共に、HPC コードの移植・保守に関する方法論の調査研究に取り組んだ江川先生。また、各国の研究者との議論を通して、それぞれの地域や国の研究動向を知ることができたと言います。「HPCコードが、並列化していくプロセスなどを実際に見聞できたことは大きな収穫でした。そして、これは以前から知識・情報として知っていましたが、やはりGRSにおけるシステム管理ノウハウは非常に優れているな、と。1980年代、日米スパコン貿易摩擦が生じたように、スーパーコンピュータの開発は、現在も日本と米国が中心です。欧州にもスーパーコンピュータベンダがありますが、ハードウェア開発に注力するというよりは、スーパーコンピュータの効率的利用を支援するツールの研究開発が主軸です。システムを使う側からの発想や開発力は、やはり一日の長があるという印象ですね」。

今回の派遣で得られたHPC コードの並列化に関する知見は、理学ならびに工学分野のHPC コードのさらなる高度化・高精度化に貢献するものであり、今後も引き続き取り組んでいきたいとする江川先生。「この研究が進捗することで、本学サイバーサイエンスセンターで実行されているHPC コードや、本学工学研究科で開発された流体計算を行うHPCコードの並列化・最適化を促進することができ、コードを開発している研究者の取り組みを加速させることができると考えています。より一層複雑化、多様化していく将来のスーパーコンピュータシステムの性能を十分に引き出し、利活用するためには、コードの開発者である計算科学者と私たち計算機科学者がしっかりと協調して、ソフトウェアだけではなく、HPC システムを築き上げていく必要があるでしょう」。

 「冒頭、スーパーコンピュータの速度の話題が出ました。もちろん世界市場における優位性確保のためにも先鋭的に性能を追求することも重要ですが、一方でコンピュータを‘計算する道具’と考えるならば、必要とされることに運用されて初めてそのポテンシャルを発揮したと捉えられるのではないでしょうか。私たちのミッションは、研究者たちが解きたいと希求する問題に対して、早いターンアラウンドタイムで最適解を出していくこと。現在、工学研究科機械系の先生とのコラボレーションで進めている研究に、CFD(数値流体力学)による次世代型ジェットエンジンの開発がありますが、これらの取り組みを通じて、いずれ社会に貢献できると思えるのは、非常にうれしいことです」。コンピュータと対峙しながらも、社会への視座を忘れたくないと語る江川先生。CFD(数値流体力学)が担うスクラムジェットエンジン、蒸気タービン、国内初の小型ジェット機の設計開発、地震や海洋シミュレーションを通じて、時代と社会の要請に応えていきます。

(写真/図3)「研究室のメンバーは、ドイツ出身者だけではなく、トルコ、エジプト、中国などから来ている留学生、研究員など国際色豊かでした。様々なバックグラウンドをもつ研究者たちと研究のみならず、プライベートでも良い関係を築けたことは、本派遣の大きな収穫のひとつだったと思います」。中央が江川助教。

(写真/図4)今回滞在したアーヘンは、人口約25 万人、ドイツ・オランダ・ベルギー3 国の国境近くに位置する。市の中心部にあり、世界遺産にも登録されている大聖堂(写真)は、北部ヨーロッパで最古のものとされ、936年から1531 年まで、神聖ローマ帝国歴代30人の皇帝の戴冠式が執り行われた。