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派遣研究者REPORT

数値流体力学と化学工学との
分野融合研究で、
未だ明らかにされない
“超臨界流体”の複雑な振る舞いに迫る!

ノッティンガム大学(イギリス ノッティンガム)
2012年6月25日~2012年9月6日(74日間)

実験チームとの協働で得られた知見は共著論文として発表、
さらには国際会議での招待講演も。

「今回は2か月余りと渡航期間が限られたものであったため、事前に『超臨界流体シミュレータ(SFS)』の開発ならびにテスト計算を行い、実験によるパラメータを設定すれば、値が得られるように準備していきました」。古澤先生の事前準備が奏功したことは、後述しますが、分野融合研究ならではの難しさに向き合わなければならなかったことも多かったようです。「研究対象は一緒ですが、目的もアプローチも異なるため、それをすり合わせることに苦労しました。私が求めるのは、細かな影響を考慮した実験データですが、それがなかなか叶わなかったりしました。精度・確度の問題ではなく、専門分野の“文化”の違いといえるのかもしれませんが、そうした溝を埋めるために適宜ディスカッションをし、問題点の共有を図っていきました。元々、英語によるコミュニケーションは得手とするところではありませんでしたが、“必要は発明の母”ならぬ“必要は上達の母”。研究面のみならず、日常生活においても英語漬けの日々の中で、向上が図られたのではないかと思っています。ただ化学分野の専門用語は馴染みのないものが多く、苦労しました。日本語であればある程度推測することもできますが、英単語ではお手上げでした(笑)」。

 「超臨界流体シミュレータ(SFS)」を用いて,連続水熱合成反応におけるノズル型反応器内の超臨界水と常温溶液の流動の数値解析に取り組んだ古澤先生。「ノズル型反応器は径が6mm~12mm、超臨界水の温度は680K~640K※4、圧力は25MPa~30MPa といろいろな条件での流動の解析を行い、それぞれの値が流動に与える影響を評価しました。引き続きポンプ脈動の影響をみるために、流入条件を変更した計算も行いました。この脈動については、実はこれまであまり考慮してこなかったのですが、今回は実験のグループと一緒だったことで組み入れることができました」。その結果、流路、温度、圧力条件の最適化に向けた多くの重要な知見が得られました。海外派遣での一連の研究成果は、Lester 教授との共著論文として投稿予定。さらには2013年1月に開催される国際会議において招待講演者として発表する予定です。

 「ある程度まとまった期間を海外で過ごし、さらに分野融合領域の研究に取り組むのは初めてだったので、正直不安な面も多かったのですが、幸いにも多くの方のご協力によって、研究成果を公に発信できるまで洗練させることができました。渡英前、不安に感じた一因として、“異文化に身を置く”ということがありました。もちろん日本と異なる点を挙げれば枚挙にいとまがありませんが、むしろ共通点を発見する喜びが、滞在を心愉しいものにしてくれたように思います。特に研究者たちが胸に抱く情熱、探究心は、言葉や文化をこえて通底するものなのだと強く感じました」。ノッティンガム大学のLester 教授の研究グループとは、WPI-AIMRの阿尻教授のグループとともに、今後も共同研究を続けていくことになっています。数値流体力学と化学工学の融合研究が、どんな“反応”をみせてくれるのか注目していきましょう。

※4
国際単位系(SI)の基本単位のひとつ。ケルビンを単位として測った温度を絶対温度という。温度差を表す場合のケルビンの大きさはセルシウス度(摂氏:℃)と同一で、温度の値を表す場合にはセルシウス度による値より273.15 Kだけ大きい。

(写真/図3)レスター教授(左)とともに。古澤先生の海外派遣先として取り持ってくれた東北大学WPI-AIMRの阿尻教授とは長らく共同研究に取り組んでおられる。

(写真/図4)(写真/図4)数値解析による超臨界水と常温水との混合の計算例。内部管の上部から超 臨界水が流入し(赤で示された部分)、外部管の下部から常温水が流入する(青)。ノズル出口近くで2つの流体が混合しているのが見て取れる(緑)。この時に超臨界水と溶液の接触面で金属塩の反応速度の上昇および酸化金属の溶解度の低下によって、過飽和の状態となり、ナノサイズの微細粒子が析出する。