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派遣研究者REPORT

世界を知ることで、
自身の知的資源を豊かに。
研究者として備えたい“外向き”志向。

ストラスブール大学
(フランス ストラスブール)
2010年8月31日~2010年11月1日(63日間)

マウスで実験。開発したEMアルゴリズムは、動き続ける対象物をどう認識するか。

来日4年半。国費留学生として東北大学の門をくぐった費さん。「留学するにあたり、特に希望していた国や地域はありませんでしたが、日本は中国と同じ東アジア圏に属する国として、もともと親近感を持っていました。漢字や生活習慣など共通する文化も少なくありませんし、なんといっても人びとが心温かく親切だという印象があったのです。もちろん科学技術の先進性・独創性は言うまでもなく、ぜひ日本で学んでもみたいと思いました」。中国の大学ではモーター制御を専門としていた費さんが今、取り組んでいるのが、「線虫の自動追跡システムの開発」。その研究の背景を簡単にお話ししましょう。

費さんが所属する橋本・鏡研究室では、「システムバイオロジー」を研究テーマのひとつに掲げています。これは生物をシステムとしてとらえ、細胞・組織の機構や振る舞いをコンピュータサイエンスで探究・解析していこうというものです。同研究室では、蛍光色素を注入もしくは発現させた細胞を追跡計測するための「トラッキング蛍光顕微鏡」を開発しています。これにより細胞内の運動や応答を可視化し、観察することができます。間断なく動く対象物を自動認識させるために重要となるのが、追跡対象以外の細胞が侵入したり、他の細胞と接触したりしても、同一の細胞だけを認識し続ける画像処理におけるロバストネス(頑健性)です。つまり追跡中にいろいろな障害や邪魔するものが出現しても、ターゲットをしっかり見分ける性能です。

「線虫の形を認識させる、ロバストなトラッキングのためにExpectation-Maximization(EM)アルゴリズムによる画像処理を考えました。この実験のために向かったのが、長らく橋本・鏡研究室と研究交流のあるストラスブール大学LSIIT研究所です(写真/図1)。ここでは線虫の代わりにマウスを用いて自動追跡を試みました」。さて、実験の結果は? 「結果は非常に満足のいくもので、二匹のマウスの形を別々に、継続して認識することができました。ただし、マウスが衝突する場合では十分な正確性を担保できなかったので(写真/図3)、学習モデルSupport Vector Machine (SVM)を適用したところ、さらに正確な認識が可能となりました(写真/図4)。これは私たち研究室が取り組むトラッキング蛍光顕微鏡の開発にも応用できる成果です」。実験の画像が保存されているスマートフォンを手に、熱の入った説明は続きます。

(写真/図1)ストラスブール大学のIRCAD(消化器系癌研究所)内にあるLSIIT研究所。

(写真/図2)実験は、ゲージに複数のマウスを入れ、その上に画像処理機能付き高速カメラを設置して行われた。