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派遣研究者REPORT

環境・エネルギー問題の解決に
大きな期待「固体酸化物形燃料電池」。
機能性向上、用途拡大。
次世代型の基盤をなす技術に挑む。

カリフォルニア州立大学デービス校 化学工学・材料科学専攻
(アメリカ合衆国 カリフォルニア州デービス市)
2010年10月16日~同12月19日(65日間)

経験知ではなく、理論を背景として討論し合うゼミスタイルに感銘。

井口先生の研究成果は、2ヶ月の滞在で果たされたとは思えないほど有意義なものでした。『プロトン導電体を用いた低温作動マイクロSOFCカソード電極用酸化亜鉛ナノワイヤの合成』については、合成条件(主に温度)の最適化を行い、続いて複数の焼結条件下における形状を観察。「合成した酸化亜鉛ナノワイヤを用いて、電極としての特性評価を実施しました。その結果、性能については課題が残るものの、低温作動マイクロSOFCカソード電極として十分に機能することが確認されました」。

ふたつ目の課題『直流分極下おける交流インピーダンス法を用いたバリウムジルコネート系プロトン導電体の粒界特性の評価』に関しては、日本で作製し持参した試料を用い、Kim研究室が所有するシステム(直流電圧を最大40Vまで印加しながら交流インピーダンス計測を行う)で実験・評価を行いました。そこで得られたデータは、プロトン伝導を阻害する機構が、電気化学的粒界にあるとの考えを裏付けるものでした。「今まで数多くの考察がなされてきましたが、実験的に証明されたケースはありませんでした。すでに国際学会での発表を終え、Kim教授との共同論文に着手しています」。渡米前、来日していたKim教授と綿密な研究計画を練るなど、事前の準備も奏功したようです。

「派遣期間中は上記研究に取り組む一方で、毎週行われていたKim研究室のゼミにも参加しました。そこで非常に印象的だったのは、学部生が物怖じせずに積極的に発言をしていたことです。学生が指導教員の話を静かに拝聴する(ことの多い)日本のゼミ風景とは全く異なっていましたね」。私たちの研究室とは専攻が異なるという前提はあるものの、と井口先生は続けます。「彼らは熱化学や材料科学の理論を土台として、ディスカッションをするのです。ですから(実験結果の蓄積であるところの)経験知の多寡はここでは関係ありません。誰もが同じ土俵の上で議論を戦わせます。こうしたスタイルのゼミ運営は、学生たちの思考力・発言力の養成と研究進展に大きなメリットがあると感じました。帰国後は、理論からの積み上げを念頭に置いた学生指導を心がけています」。

国際フィールドで活躍する研究者に対し、グローバルな視野・思考性を持つことの重要性が唱えられています。「伝聞や書物によって理解の道を選ぶよりも、実際に海外に身を置き、ある程度の期間をそこで過ごすことによって、国際的感覚というのは立ち上がってくるのではないでしょうか」。腰を据えて暮らすことによって、社会の仕組み・システムが、人々の思考・行動をどう構造化しているのかも知り得たという井口先生。「失敗も含めて、学生へのアドバイスには事欠きませんよ。一人でも多くの後進が同様の機会を与えられるようにと願っています」。

(写真/図3)デービス校は農学校をルーツとする。学食カフェ、会議室などがある『サイロ』は、1909年大学農場に建てられた初期の建物群のひとつ。半世紀以上、収納庫として用いられていたが、1965年から学生のための福祉施設として活用されている。

(写真/図4)Kim研究室に所属する大学院生、学生と。「彼らはとてもよく勉強していましたし、研究に対しても真摯で熱心でした」。井口助教の左に立つのがKim教授。