Plasma Science and Fusion Center,
Massachusetts Institute of Technology(アメリカ合衆国 ケンブリッジ市)
2011年2月27日 ~2011年5月6日(69日間)
マグネットを分割して製造し、それを組み立てたり交換したりするということは、マグネット同士が接する部分の性能が鍵となるのではないでしょうか。「そうです、接合部の接触抵抗が大きいと発熱するなどの問題が生じてしまいます」と伊藤先生。これまで分解・着脱可能な高温超伝導マグネットに用いる接合方式として、伊藤先生とDr. Bromberg はElectrical butt JointやElectrical lap Jointを提案してきました(写真/図3、上)。これらはいくつかの利点を持つ一方、前者は接合面の脱離の恐れ(電磁力によるコイルの周方向変位による)、後者は接合部区間が長くなってしまう、コイル分解時に接合面を研磨できないなどの短所・不具合を有していました。そうした欠点を克服した新しい接合法として、伊藤先生は新たにElectrical edge joint (写真/図3、下)を提唱しています。L字型の継ぎ手をもつElectrical edge joint は、他の二つの接合方式と比較すると接合部の体積が大きくなってしまうため、接合部構造の最適化が課題になるといいます。
「到着してから3週間は先方の研究者たちと議論を重ね、コンセプトを練りあげ洗練させ、いよいよ設計に入ろうとしたら、『それはDr. Itoの仕事ではない』という示唆がありました。デザイナーとテクニシャンの仕事だ、というわけです。日本の大学では――少なくても本学では、研究者が自ら設計に携わるケースが多いのですが、MITでは図面引きは技術職員の業務であり、各人が担うべき仕事の領域が明確にされていました」。ここで大切になってくるのは、デザイナーやテクニシャンとのコミュニケーションであると伊藤先生は強調します。「設計の意図は共有されているか、進捗状況はどうかなど、折を見て確認する必要があります。技術職員の勤務時間帯は研究員とは異なっているため(概ね6:00~15:00)、スケジュール管理などに配慮が必要でした。しっかりと連携がとれていないと、研究が思うように進まない…という状況に陥りかねません」。
設計・製作した接合試験機ならびに接合試験用Electrical edge jointサンプルを用いた試験にこぎ着けたのは帰国の10日前という慌ただしさ。限られた時間の中でも、いくつかの重要な知見を得、解決すべき課題を明らかにすることができたのは大きな収穫でした。「この時の成果は、2011年6月にシカゴ(米国)で開催された国際会議で発表する機会を得ました。また帰国後、Dr. Brombergから打診があり、Plasma Science and Fusion Centerと共同研究を行う運びとなりました」。国際会議での発表、そして共同研究の立ち上げは、今回の海外派遣の延長線上にあるものです。
「巨大科学ともいえる核融合炉は、ITER(前ページの脚注※3参照)に示されるように、国際協力の下、世界中の研究者の英知と努力を結集して、原型炉、実証炉、そして商業炉への探索行が進められています。実現可能性を高めるブレークスルーをぜひ大学の研究室で成し遂げたいですね」と伊藤先生。世界の研究者たちが有機的に結びつき、新しい知見を次々と融合させていくことによって、未来のエネルギー・核融合炉の扉は開かれていくことでしょう。
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