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派遣研究者REPORT

未知かつ危険な環境下での活躍が
期待されるロボット。
遠隔操作の新しい可能性にむけた、
チャレンジングな研究テーマと向かい合う。

ミュンヘン工科大学 制御工学研究所(ドイツ ミュンヘン)
2011年9月11日~2011年11月12日(63日間)

大所帯の研究所LSRを支える運営システム、
高度に機能する先端研究のフィールド。

海外派遣・海外留学に際して、“言葉”の不安を口にする学生さんは少なくありません。実際に「専門分野に関するコミュニケーションに問題はなかったけれど、雑談やジョークのやりとりが苦手で…」との経験談がよく披瀝されます。今から11年前、言葉(母語と英語以外)を全く解さずに東北大学の博士前期課程に進んだ姜先生は、第二言語習得のカギを「とにかく毎日使うことですね」と流ちょうな日本語で答えてくれました。「指導教員との会話では英語を用いますし、板書や資料も英文がベースですから、学業や研究において特に困難に感じることはなかったですね。大学院入学後は専門分野のクラスを取りながら、留学生対象の言語学習プログラムを受講しましたが、とにかく日常会話の場数を踏んで覚えるような努力をしました」。今や世界中で人気を博している “Manga”を通じて、日本語に触れたという欧米の留学生がいる一方で「私たち中国人の場合は、ひらがなが多いマンガは苦手です(笑)。漢字の多い新聞が、“教材”としては向いているのです」。なるほどThere is no royal road to learning(学問に王道なし)。自分にあった学習法を見つけることが、少なくとも言語獲得の近道となるようです。

そもそも姜先生は母国の大学(修士課程)で、自動制御に関する研究に取り組んでいました。「大学ではアルゴリズムの構築やシミュレーションまでは行うのですが、(当時は)それらを反映させて実機をつくるというところまでは学べなかったのです。私としては、実際にロボットを制作してみて、どう動くかということに非常に興味がありました。ちょうどその頃、私の親戚が東北大学医学研究科の博士課程に在籍していて、『それならば東北大学の機械系で学ぶべき』と強く勧めてくれました。世界を見渡せば選択肢は他にもあったのですが、当該分野の先端をゆく教育研究機関として本学を選びました」。言葉の壁を乗り越え、ひとすじに続けてきた学究生活。知的好奇心と探究心を発揮する舞台は、世界へと広がっています。

「ミュンヘン工科大学(Technische Universität München:TUM)の制御工学研究所(Institute of Automatic Control Engineering:以下LSR)は、遠隔操作に関する研究で世界に知られています。私は、2010年のIEEE国際学会でLSRが発表した研究内容に関心を持っており、機会あればぜひそのノウハウを学びたいと思っていました。ちなみに今回の海外派遣先となったLSRの所長Dr. Martin Bussは、東京大学で博士号を修められた親日家で、なにかと配慮してくださいました」。またLSRは、本学にはみられないとても興味深い組織として姜先生の目に映ったようです。「ここは博士課程だけでも50名、その下に修士課程の学生、卒業研究をする学部生が多数在籍しています。対して、指導役である教員は、教授2名、助教・講師合わせて7名と、大所帯の研究所を運営するのは大丈夫なのだろうかと心配される布陣です。しかし、話を聞いてみれば、博士課程の学生は職員としての扱いで、報酬も受け取っています。ですから修士学生や学部生の指導は、博士課程学生が“仕事”として責任を持って担っています。こうした役割が明確なピラミッド型の組織・システムによって、先端研究のフィールドが保持されているのです」。さて、今回の海外派遣に際しては、これまであまり先行研究のないチャレンジングなテーマを掲げた姜先生。次ページでその内容をご紹介していきましょう。

(写真/図1)到着して間もなく、LSR創立50周年を祝うイベントが開催された。「研究所が発足してから半世紀ということは、制御工学の黎明期から歩んできたということになります。そう考えると非常に感慨深いものがありました」。一列目左から4番目が姜先生。

(写真/図2)「日本の大学では、夜遅くまで研究や仕事に取り組んだりすることも稀ではありませんが、LSRの研究者たちの多くは、仕事同様に私的な時間・余暇を大切にしているようでした」。写真は、ミュンヘン市内のレストランにて。