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派遣研究者REPORT

近未来型スクラムジェットエンジンの
設計に向けて、“マッハの流れ場”を観る。

バージニア大学(アメリカ合衆国 バージニア州シャーロッツビル)
2011年3月9日~2011年9月30日(206日間)

障壁を乗り越えて得たデータは、
超音速燃焼器研究のための開かれた知見として共有化。

流れを可視化する方法のひとつに、流体の密度差に伴う光の屈折率の変化を利用した光学的観測法「シュリーレン(Schlieren)法」があります。この方法は、超音速流中での流れ場の振る舞いを詳細に可視化することができるため、燃焼を伴わない風洞などで用いられています。しかし、燃焼風洞の場合は、数秒の試験時間でも可視化用のガラスが熱によりゆがみ、屈折率が変化するため、シュリーレン法による観察が行えません。河内先生はフォーカシング・シュリーレン(Focusing Schlieren)の技術を用いて、この研究課題にアプローチし、新しい知見を見出そうとしています。

「可視化窓のゆがみの影響を小さくするには、計測システムの被写界深度を浅くする必要がありますが、それに伴い計測系の感度が低下するというトレードオフが発生します。燃焼風洞に最適なフォーカシング・シュリーレンのセッティングとオプティクスの配置の検討は、実際に試してみなければわからないことが多く、セットアップの見直しを図りながら、進めていきました」。3回予定されていた実験は、他の研究者のスケジュールの都合により2回に、さらには風洞外壁ぎりぎりまで近づけていたシュリーレンレンズが実験直後に破損するなどのアクシデントに見舞われましたが、可視化結果は、衝撃波や噴流内の大規模乱流構造を鮮明に捉えたものでした(写真/図3)。この成果は、すでにアメリカの超音速燃焼器研究のデータベースで共有されるとともに、国際会議AIAA Aerospace Sciences Meetingにおいても発表され、多くの耳目を集めました。さらには論文投稿も間近に控えています。

「風洞実験に際しては、テクニシャン(技術補助員)のサポートがありますが、計測機器のセットアップは自身の手で取り組みました。ある程度の想定はしていたものの、予想外に苦戦させられたものに単位系の違いがあります。私は実験装置を日本から持ち込んだのですが、アメリカ(インチ)とは異なる単位規格(メートル)で作られたネジは親和性が悪く、手こずることも度々でした。また風洞の設計図などは事前に送ってもらい目を通していましたが、実際に現場を見てみなければわからない箇所があり、その上機器のセットアップに大きく影響するポイントだったことにも手を焼きました。こればかりは事前に下見に来られるアメリカの研究者が、うらやましくもありましたね」。

「滞在中は世界トップクラスの光学計測を目の当たりにすることができました。私が所属する研究室のほうが優れているのではないかと自負させられたり、『これは到底かなわない』と感嘆することもあったりなど、多くの気づきと学びがありました。またそれ以上に、超音速燃焼分野のフロントランナーともいえる研究者たちと面識を持ち、人的ネットワークを築けたのは何よりの財産になりました。帰国後、私の依頼に応ずる形で貴重なデータを提供してくださるなど、すでに研究交流が始まっています」。ランチやコーヒータイムなどを共に過ごし、親交を図る努力を重ねたという河内先生。伝えよう/理解しようという意志の交換が、実はコミュニケーションの原動力なのだと感じ入ったと言います。200日余りの米国生活、社会制度の違いなどに困惑する場面があったものの、「世界中どこに行っても研究生活ができる自信がついた」と語る河内先生。さらに大きく、世界に羽ばたくための翼を得たようです。

(写真/図3)衝撃波や噴流内の大規模乱流構造を鮮明にとらえた画像。計測システムの被写界深度を浅くし、加熱によるガラスのゆがみの影響を最小限に抑えたことと、UVaにあったパルスレーザーを光源として組み込んだことが奏功した。

(写真/図4)ARLカンファレンスルームでのミーティング風景。右手前から二人目がGoyne博士、奥に立つのが河内先生。