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派遣研究者REPORT

世界初の計測データを手に!
研究は“萌芽”の段階から
成長・発展的ステージへ。

クイーンズランド大学
(オーストラリア クイーンズランド州ブリスベン)
2010年7月17日~2010年9月30日(76日間)

海外での研究に専心するには、快適に安心して過ごせる住環境の確保を。

さて、意気揚々とクイーンズランド大学に乗り込んだ村越先生がまず取り組んだのが、「中耳動特性計測装置(Sweep Frequency Impedance meter :以下SFIメーター)」の修理・改良、ソフトのバージョンアップでした。

「共同研究のため、日本の研究室にあるものと同様のSFIメーターを2008年に輸出し(安全保障輸出全学管理責任者から取引承認取得済み)、現地に設置しましたが、取り扱い方に問題があったのとエンジニア不在のためか、正常に動作しない状態になっていました」。半ばうち捨てられていたSFIメーターを再び立ち上がらせ、村越先生が帰国後もオーディオロジストが継続して計測できるように安全性・使い勝手を向上させたあとは、いよいよ臨床研究へ。イプスウィッチ総合病院、タウンズビル総合病院で得られた計測データは、村越先生を驚かせるに十分なものでした。

「聴力正常成人から取得したSFIデータでは1000Hz付近に一つの音圧変化しか確認されません。しかし、正常聴力を有すると考えられる新生児の計測では、より低い周波数でもうひとつの音圧変化が確認されました。これは新生児に特有のもので、大人の中耳動特性とは全く異なる可能性が示されました」と村越先生。今まで報告がない世界で初めてのデータです。また、中耳に何らかの問題を持つと思われる新生児の計測では、前述の二つの音圧変化のうち、高周波数域にのみ変化がみられ、中耳動特性の解析に向けた貴重な知見が得られました。

「現地ではVisiting Scholar(客員研究員)として、占有スペースを与えられるなど、とても恵まれた環境のなかで共同研究に取り組むことができました。慣れない海外暮らしでは、ナーバスになることも多いと思いますが、本旨である研究に傾注するには、安全で快適な住まいの確保が最も重要だと感じました。受け入れ先の研究者や職員の方に周辺情報を問い合わせるとともに、インターネットなどで調べるなど、多様な情報源を持つことをおすすめします。食事については……“郷に入りては郷に従え”の心持ちで臨むしかありませんね(笑)。“異文化”を柔軟に楽しむ姿勢も大切にしてほしいと思います」とは後進へのアドバイス。

大きな“おみやげ”を手に帰国した村越先生。それは、同研究を“芽生え”の段階から成長、発展といったひとつ上のステージに導く役割を果たしました。今後、どんな“実り”のニュースがもたらされるのか、耳を澄ませていきましょう。

(写真/図3)Kei博士とは2003年に日本で開催された学会で同席して以来の知己。円滑なコミュニケーションにより、今般の共同研究がより充実したものとなった。

(写真/図4)2週間滞在して臨床研究を行ったタウンズビル総合病院にて。共同研究をサポートしてくれたスタッフと。