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派遣研究者REPORT

複雑な流体の振る舞いを
光学的手法で“視る”。
日米二国間研究のミッション
「複合的イメージング技術」の開発に向けて。

University of Florida (アメリカ合衆国 フロリダ州ゲインズビル)
2011年8月1日~2011年9月30日(61日間)

「扱いにくくて、高価、汎用性に欠ける」、
従来の短所を克服する新しい干渉計法の確立を照準に。

「2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。私の研究室も大きな被害を受けたことに加えて、学内の復旧作業への協力・調整、さらには実験機器の損傷によって研究計画の変更を余儀なくされた学生さんのケアなどで、忙殺される日々が続きました。本海外派遣を控えていた私は、当然、取りやめにせざるを得ないと考えていましたが、上司である浅井教授は『異なる研究環境に身を置ける、せっかくのチャンスを無にすることはない』と背中を押してくれました」。今回の渡米は、周りの多くの方の支援と協力があって実現しました、と沼田先生からは感謝の言葉が続きました。

浅井・沼田研究室は、今回の派遣先となったフロリダ大学Louis Cattafesta教授(現在はフロリダ州立大学教授)の研究チームと二国間共同研究(日本学術振興会JSPS)の下、「複合的光学イメージング技術」の開発に取り組んでいます。その研究の背景について、お話しいただきましょう。「液体や気体、プラズマといった固体でない連続体のことを“流体”といいます。その振る舞いを解析するための数理的研究は、近年目覚ましい成果を挙げてきましたが、現象がより複雑になるにつれて、理論的な取り扱いだけでは実現象の定量的予測が難しくなってきます」。そこで、全体像を把握するために、圧力や密度などの物理量の変動を、実験的に把握することが重要となってくるわけですが…。「これまで用いられている圧力変換器やマイクロフォンなどの単体センサーでは、空間的・時間的に変動する波動現象の全貌を捉えることは困難です。一方、光学的な方法による流れの可視化技術では、流体場の密度勾配やその変化を光の明暗像として捉えることはできるのですが、あくまで流れの“定性的”性質を視覚化しているだけに過ぎず、3次元構造や圧力や密度といった“定量的”変化を調べることはできませんでした」。

こうした課題にアプローチするため、フロリダ大学Cattafesta教授の研究チームと共同で行っているのが、新しいタイプの可視化技術。沼田先生が取り組んでいる可視化法は「点回折干渉法(Point Diffraction Interferometer, PDI)」と呼ばれるものです。「流体現象の定量把握のための手法はいくつも提案されているのですが、特に密度場の定量評価には干渉計法が有効です。ですが、従来の手法は光学系を構築する過程で非常に厳密な光軸の調整が必要であり(高度に熟練した技術を備えなければならない)、高い光学精度を持つ高価な光学素子や可視化窓を要するため、コストが高くなってしまうといった汎用性の悪さがありました」。 これらの問題点を一挙に解決できる可能性を持つ手法が「点回折干渉法」。しかし、そこには解決すべき課題もあります。「点回折干渉法は、比較的シンプルな光学系構成なのですが、干渉計として働くピンホール部の設計や構成、そしてそこに入射する物体光の状態が可視化画像に大きな影響を与えるため、それを補うためにピンホール部に複雑な光学系を組むなどの多くの工夫が必要となります」。そのハードルを越えることで、「構造的に単純」で、「高度な光学系調整が不必要」、なおかつ「低コスト」な干渉計の構築が可能になります。沼田先生のフロリダ大学での試行錯誤が始まりました。

(写真/図1)フロリダ大学は、学部生・大学院生あわせて50,000人以上を擁する全米屈指の名門大学。約2,000エーカー(東京ドーム約173個分)の敷地に、900以上の建物(170の教室・研究室を含む)を有する。写真は、沼田先生が滞在した Mechanical and Aerospace Engineering (MAE)の研究棟。南国らしい植物が目を引く。

(写真/図2)沼田先生が実験を行った、フロリダ大学のキャビティ風洞。