Archive

派遣研究者REPORT

複雑な流体の振る舞いを
光学的手法で“視る”。
日米二国間研究のミッション
「複合的イメージング技術」の開発に向けて。

University of Florida (アメリカ合衆国 フロリダ州ゲインズビル)
2011年8月1日~2011年9月30日(61日間)

異なる環境、異なる研究室運営。長所を融合し、
“研究の楽しさ”を見出せる学生指導を。

研究の大きな鍵となるのが、ピンホール部の構築。「ピンホール候補として、複数の半透明素材を選んで、それらを導入した点回折干渉法による可視化実験を行いました」。来る日も来る日も、実験と見直しの繰り返し、思うにまかせない結果、とにかく試験の機会を増やそうと夜遅くまで研究室に留まる毎日…。「受け入れ先では、夜を徹して研究するということがないらしく、当初は不思議な…というか奇異な目で見られていたようです(笑)。こうした研究スタイルの違いによって、実験等が思うように進まない時期もありましたが、だんだんお互いへの理解が進んで、問題は最小化されたように思います。でも、これでまた日本人=ワーカホリックのイメージが強化されたかもしれませんね」。そして、ようやく「これだ!」という結果が見出せたのは、帰国の2週間前(写真/図3)。胸を撫で下ろす、とはこのことですね、と沼田先生。

ひと息つく間もなく、次なるターゲット「キャビティ流れ」に適用します。「キャビティ流れとは、空洞(キャビティ)の上を流れが通過する際に現れる現象のことで、身近な例としては、サンルーフ付きの自動車に乗っている時に経験する、耳を圧迫するような不快な騒音があります。これはもちろん抑制することが求められていますが、詳しい原理はいまだ解明されていません」。沼田先生は、キャビティ流の解明に踏み込むべく、開発した点回折干渉法を用いて、密度場の可視化を試みました(写真/図4)。いくつかの課題はありましたが、それらを解消すれば、キャビティ流れの現象解明に向けた密度場の取得が十分可能であると結論づけられました。今回、大きな成果を挙げた可視化手法に、フロリダ大学が開発に取り組んでいる「背景配向シュリーレン(BOS法)」など数種類の可視化技術を組み合わせることで、共同研究の目標である先進的な「複合的光学イメージング技術」に近づきます。

実験漬けの日々。しかし、異文化の中で見聞を広めようという沼田先生の視野と感受性は、Cattafesta教授による研究室運営を捉えていました。「学生指導においては、研究に関する明確かつ具体的な目標を与え、その達成に至るまできめ細やかな助言とサポートがなされていたことが印象的でした」。もちろん過保護というわけではなく、自主性を担保した上ですが、と沼田先生は続けます。「私にも経験がありますが、学部4年生から取り組む実験は、覚えることが多く、“やらされている感”が否めないのです。人によっては、研究へのモチベーションを維持するのが難しくなる場合もあるでしょう。しかし、ルールや目標が提示されることで、結果がみえやすくなり、それが研究意欲の向上、ひいては“研究の楽しさ”の発見につながっていきます」。成果は大きな原動力、推進力です。「こうしたアメリカ型――正確にはCattafesta教授スタイルを容易なものとしている背景には、研究を補佐してくれる職員・スタッフが日本とは比べ物にならないほど充実しているということがあります。片や、実験や研究にまつわるすべてを手掛けなければならない日本型は、教育効果が大きいという利点もあります。今後は二国の研究室運営法を融合し、一人でも多くの学生さんに研究の楽しい側面に触れてもらえるよう取り組んでいきたいですね」。そして、沼田先生のフロリダ大学でのさまざまな経験を聞き及ぶに至り、海外大学への留学を真剣に検討する学生さんが現れたといいます。研究の次なるステージを求めて海外へ…その潮流は着実に受け継がれているようです。

(写真/図3)点回折干渉法による可視化の例。柄の長いライター先端から生じた火炎の等密度分布(等温)図を示す。火炎内とその周辺に明暗の干渉縞がみられ、火炎構造及び周辺の熱対流の様子を明瞭に可視化できているのがわかる。

(写真/図4)開発した点回折干渉法を流体現象(キャビティ流れ)に適用し、密度場の可視化を試みた結果。主流速度はマッハ数0.7(時速約857キロメートル)。気流は図の左から右へと流れており、キャビティ前縁部よりせん断層が確認でき、その先に複数の渦が発生して渦列となり、後縁部へと続いているのがわかる。