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派遣研究者REPORT

国際協力・協調が前提条件。
開かれた知見が、
核融合炉の未来を結ぶ。

ジェネラル・アトミクス社 / カリフォルニア大学サンディエゴ校
(アメリカ合衆国 サンディエゴ市)
2011年3月9日~2011年5月14日(67日間)

“地上の太陽”が暮らしを照らす。先進のエネルギー・核融合。

取材当日、岡本先生の机の上に置かれていた「高校生向け核融合講座」の趣意書が目に留まりました。「仙台市内の高校から、核融合に関するレクチャーをしてほしいという依頼があり、研究室に迎え入れて講義と実習を行いました。物理の教科書では少ししか触れられていないようなのですが、もっと詳しく知りたいという声が多いようですね」。核融合エネルギーは、資源の枯渇問題を半永久的に解決する有力候補として知られています。高校生たちの興味と関心、知的好奇心が大いに刺激されるのもわかります。「講義の後は『早く実現してください』という期待と励ましが寄せられました。研究者にとってはよい意味でのプレッシャーになりますね」。

「核融合の研究が始まってから半世紀が経ちました。核融合の難しさの一つは、高温高密度プラズマを長時間閉じこめ、維持し続けるという点です。プラズマのエネルギー輸送のメカニズムは非常に複雑であり、それを解明することが鍵となってきます」。それは取りも直さず岡本先生が担う分野です。ここで核融合についてご説明いただきましょう。少し難しくなりますがお付き合いください。

「核融合反応とはごく簡単にいえば、水素のような軽い原子同士がぶつかって、ひとつの少し重い原子ができる現象をいいます。この時、ひとつになった原子はわずかな質量を失う代わりにとても大きなエネルギーを生み出します。この核融合エネルギーを社会や暮らしに役立てようという発想で研究が進められているのが核融合炉です(写真/図1)」。地球に大いなる恵みをもたらしてくれている太陽を始め、宇宙空間で光り輝く恒星の内部で起きているのも核融合反応です。

「しかし原子核はプラス(正)の電荷を帯びているので、ただ近づけただけでは反発し合ってぶつかりません。この反発する力(クローン力)に打ち勝つためには“高温高密度のプラズマ※1状態”にし、有限空間の中に閉じこめる必要があるのです」。“高温”とはなんと1億℃以上! 残念ながら地球上にはそのような超高温に耐える材料は存在しません。「そこで強力な磁力線のカゴをつくって、その中にプラズマを閉じこめる方式がとられています。高温プラズマと真空容器の内壁が接触しない磁場配位が採用されていますが、一部は拡散などによって炉心から周囲に広がっていきます(周辺プラズマ)。周辺プラズマが真空容器に接すると、炉壁の原子を叩き出す現象(物理スパッタリング)を引き起こします。叩き出された不純物原子がプラズマ内に混入すると温度を下げてしまうだけではなく(核融合反応を停止させる一因となる)、壁表面の耐久性も損なってしまいます。そこで本来ならば内壁全体に散らばるはずだったプラズマ粒子を一カ所に集中させ、壁に接する前に温度を下げて消し、不純物混入と壁損傷を低減させる方法がとられています。この時プラズマからの高い熱流束や粒子の流れを受けとめるのが“ダイバータ”という対向機器です(写真/図2)。私は、本研究室が所有する小型のダイバータ模擬装置を用いて実験を行い、トカマク装置のダイバータ領域における諸現象の解明を行っています」。引き続き、今回の海外派遣についてお話しいただきましょう。

※1
プラズマとは、気体を構成する分子が部分的に、または完全に電離し、正イオンと電子に別れて自由に運動している状態であり、固体・液体・気体につづく物質の第四態といわれる。私たちの身近にも多く存在し、雷、オーロラ、炎などの自然現象の他、プラズマディスプレイ、蛍光灯、ネオンサイン、ロケットのイオンエンジンなど多くの人工プラズマがある。

(写真/図1)磁場の形成には、トカマク型、ヘリカル型、ミラー型などのタイプが検討されているが、現在最も実用に近いとされ、研究の主流となっているのがトカマク型である。図は、フランスのカダラッシュに建設中のトカマク型国際熱核融合実験炉ITER(イーター)の断面図。ITERは日本、EU、ロシア、米国、中国、韓国、インド7極の国際協力により研究が推進されている大規模プロジェクト。日本が主導的役割を果たしている。

(写真/図2) 上図は(写真/図1)のそら豆型の真空容器を拡大したもの。近年、境界層プラズマ(上図の周辺プラズマおよびダイバータプラズマ)の制御が、炉心プラズマの閉じ込め性能向上や核融合炉の長時間運転実現のために、極めて重要であることがわかってきた。