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派遣研究者REPORT

国際協力・協調が前提条件。
開かれた知見が、
核融合炉の未来を結ぶ。

ジェネラル・アトミクス社 / カリフォルニア大学サンディエゴ校
(アメリカ合衆国 サンディエゴ市)
2011年3月9日~2011年5月14日(67日間)

実験が研究の要。大型装置に特有のデータや現象を注視。

今回の研究滞在においては、ジェネラル・アトミクス社(以下GA)が所有する核融合プラズマ実験装置DIII-D※2を用いた実験に参画し、大型トカマク装置における境界層プラズマの振る舞いやダイバータ領域における研究の現状を理解することを主眼としていた岡本先生。「ですからDIII-Dの実験スケジュールに合わせて渡航期間を調整していましたが、出発1ヶ月前になって『実験予定が1ヶ月程度遅れる見込み』という情報が飛び込んできました。折も折、カリフォルニア大学サンディエゴ校(以下UCSD)において、私の取り組みと非常に近い研究が開始されるとの報を得ました。幸いにもGAとUCSDは距離的にも近いですし、核融合研究に於いて密接に連携しているという背景もあります。それぞれの組織に研究滞在させてもらうことにしました」。書類等の手続きでは煩雑な面があったものの、GAとUCSD共に受け入れはスムーズでしたと語る岡本先生。巨大科学と位置づけられる核融合開発は、ITERを始めとして国際協力・協調が前提条件。研究者の人的交流が盛んな文化・土壌であるのかもしれませんね、と続けました。

「UCSDではエネルギー研究センタープラズマ表面相互作用研究グループ※3に滞在し、PISCES-A実験装置のレーザートムソン散乱計測システムの設計開発から動作試験・初期データ取得までを共同研究として実施しました。今回は、近年オランダのグループが開発した迷光抑制のコンセプトを試みることとしました」。その結果、従来の機器より簡便でかつ実用的な迷光除去システムを実証することに成功。その能力は、開発に要した費用と時間で規格化すると世界最高なのでは、と岡本先生は自負します。他の小型ダイバータ模擬装置への適用も期待されます。

GAでは「核融合エネルギー研究部門・境界層プラズマグループ」に滞在し、核融合プラズマ実験装置DIII-Dを用いた実験プロジェクトに参画した岡本先生。「実験期間は半年ほどなのですが、ダイバータ領域のプラズマ計測実験に与えられるのは4日間。その限られた時間の中で、実に4本の研究テーマを走らせるのです。総勢20名で構成される研究チームの指揮をとるのは、境界層プラズマ研究の世界的権威Peter C. Stangeby博士。実験リーダーの姿を間近にみることで、実に多くのことを学べました。今後私が同様の立場になったときの良きロールモデルになると思います」。「ダイバータ領域のプラズマ計測機器の中で、特に詳細を学んだのは分光計測機器です。計測原理は教科書にも掲載されている典型的なもので、すでに本学においても活用しています。しかし大型装置にしか現れない特徴もあり、今回DIII-D実験室に立ち入ることで初めて知ることができたのは、大きな収穫でした」と岡本先生。

帰国してから2月半を経た8月初旬、GAの共同研究者から実験が成功裏に終わったとの吉報が届きました。「モリブデン※4とプラズマの相互作用を二次元イメージング計測する計画があり、そのための感度較正(こうせい)実験に加わったのですが、その後の観測の結果、モリブデンの発光をはっきりと確認できたそうです。溜飲の下がる思いでした」。その成果は早速、報告書として編まれました。
 “開かれた知見”を基に力強く推進される核融合炉開発。私たちの社会と暮らしを照らす“地上の太陽”の実現に向けて、研究者たちの探索行は続きます。

※2
プラズマ大半径が約2mの大型核融合プラズマ実験装置。日本の磁場閉じ込めトカマク型核融合実験装置JT-60は改修中のため、現在、世界で実験稼働中の主要な大型トカマクは、DIII-DとJET(欧州)のみとなる。
※3
マサチューセッツ工科大学およびカリフォルニア大学バークレー校のグループと共に、米国エネルギー省(DoE)が推進する「プラズマ-物質相互作用のマルチスケール基礎研究に関するプロジェクト」を実施している。境界層プラズマに関する米国有数の研究者集団。
※4
原子番号42の元素、元素記号は Mo。優れた特性をもつ各種合金鋼の添加元素として欠かせない。

(写真/図3)米国カリフォルニア州サンディエゴ市郊外のラホヤに位置するUCSDは、カリフォルニア大学が有する10のキャンパスのひとつ。1959年創立。全米トップレベルの州立大学として知られる。大学院での研究が特に重視されており、各分野での評価は非常に高い。多くのノーベル賞受賞者を輩出しており、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士もUCSDの出身。

(写真/図4)米国エネルギー省(DoE)との協力の下、先進的な核融合プラズマ研究に取り組むジェネラル・アトミクス社。DIII-D実験プロジェクトは、米国のみならず欧州・アジアの研究機関・大学との共同研究に向けて広く門戸を開放している。写真はDIII-D実験棟にて、感度較正実験に取り組む岡本助教。写真奥の明るく光っている装置が、感度較正用の標準光源(積分球)、手元の横にある青いテープで仮固定している装置が、DIII-D実験に使用するC-MOSカメラ。