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派遣研究者REPORT

タッチパネルから伝わる形や感触。
視覚・聴覚+触覚の体感型デバイス
「触覚ディスプレイ」。
近い将来の実装を視野に。

マサチューセッツ工科大学(アメリカ合衆国 ボストン)
2012年4月1日~2012年7月1日(92日間)

開かれた知をつなげる力に。
議論、そして人的資源の交流が、新しい独創に結ばれていく。

触覚インターフェースが目指すのは、形とテクスチャーを同時に提示すること。「今回開発した触覚ディスプレイは、実際にテクスチャーを触った時の振動を計測し、これを再生することで材質感覚を表現していくというコンセプトです。それに向けたテクスチャーの収集、ならびに振動記録を行い、派遣期間中にシステムを完成させることができました。さらにその有効性を評価するため、学生を募って被験者実験を行いました。様々な試みの結果、形状情報はせん断力による錯覚を利用し、テクスチャー情報は振動方向を制御した記録微小振動により提示する方式を確立しました」。これらの成果はSIGGRAPH AsiaのEmerging Technologiesに投稿され、見事査読を通過。2012年11月末に開催された国際会議SIGGRAPH Asia 2012 Singaporeにてデモ展示を行いました。「触覚ディスプレイ『Feel through window』は科学系雑誌に掲載されるなど、幸いにも興味と関心を持って迎えていただきましたが、ヒューマンインターフェイスに取り組む研究者冥利に尽きる瞬間は、実際に体験した方が驚いてくださるときです。とりわけ「Wow!」「Cool!」などといった直截的なフィードバックがとてもうれしいですね」。2013年4月には、世界中の触覚研究者が集まる国際会議IEEE World Hapticsで発表される予定です。

“魔法”と称されるほど、大きなインパクトと魅力をもったプロダクツを次々と創りだすMIT Media Lab.、そしてRamesh 先生の下で触れた研究スタイルには驚かされることが多かったという嵯峨先生。「ここでの推進力となっているのは“議論”であり、それが着想、発想転換、創造、具現の源となっています。例えば『Future of Imaging』という学生から社会人まで参加自由な授業があります。私が受講した時は、毎週ビジョンテクノロジーに関するトピックの紹介や、専門家・関係者を招いての講演がありました。参加者はそれらを通じて、独自の考えを練りあげていきます。講義の最終段階では各自が考える5年後、10年後の画像テクノロジーについて発表することが求められ、それらの中から面白いアイディアがあれば、さらにMedia Lab.内で研究に昇華させることも試みられているようでした。Feasibility(実現可能性)ということに重きを置かれているため、刺激的で実りのある議論が展開されていましたね。また、どんな研究背景を持つ人とも、いつでも深い議論ができるような思考体系を養うには、優れた教育であるという印象を受けました」。研究室内、研究室間の議論も非常に盛んで、それを高度に機能させるための仕組みや工夫――たとえば研究所全体の交流の場としてのフリーランチやティーブレイク――が定期的に開催されているのだといいます。「研究を進める上で不足する知見や技術を、他の研究室の人的リソースで補うということがなされていました。“集合知”が斬新な研究の基底となっているようでしたね。まさに開かれた研究所でした」。開かれたという意味では、Ramesh 先生の指導・後進育成の姿勢にも心動かされたという嵯峨先生。

「Ramesh先生ご自身はたいへんお忙しく東奔西走の日々を送られていますが、各自の研究にも目を配り、的確なコメントをすることはもちろん、時間のあるときは『問題はないか、議論する必要はあるか』と声をかけてくださいます。そして国際会議に参加する学生や研究員には『私が他の先生と話しているのを見かけたら、積極的に声を掛けてきなさい』と指示します。これは将来の進路を考え、(他の先生に対する)自己アピールの場をつくってくださるという意図のようでした。新しい道を拓くチャンスを後進に等しく与える、こうした姿勢は指導者として最も大事な部分であると感じました」。3か月間の鮮烈な体験は「これまで自身が形成してきた枠組みを、いい意味で壊してくれました」。破壊と創造、嵯峨先生の新しい挑戦はもう始まっています。

(写真/図3)「Future of Imaging」の発表会。「参加者全員が新しいアイディアについて常に検討し、Feasibility(実現可能性)という言葉を念頭においた思考が求められます。おのずと講師への質問も厳しく鋭いものになっていきます。非常にエキサイティングでした」。

(写真/図4)Media Lab. Sponsor Weekにおける講演会の様⼦。「Media Lab.では、ほぼ毎週のように講演会が行われていましたが、あわせて各研究員が主催する小規模な講演会も盛んに実施されていました。これらは自分たちの研究分野に近い人を招聘するのはもちろん,近隣の都市で国際会議が開かれる時には、出席される研究者に声掛けをし、Media Lab.に立ち寄りがてら講演をしてもらうのです。こういった研究に対する飽くなき好奇心と探求心、積極的な意識はとても参考になりました」。