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派遣研究者REPORT

過酷な環境下で発生する
金属材料の変形、損傷。
そのメカニズムの解明に向けて、
計算科学と実験科学のコラボレーション。

ダルムシュタット工科大学(ドイツ ダルムシュタット)
2010年11月21日~2011年3月25日(124日間)

徹底した分担、大きく異なる研究スタイル。
実験目的と達成に向けた手段、タイムスケジュールの共有が重要。

ダルムシュタット工科大学では、温度900 ℃、応力54.6 MPaで29,971時間のクリープ中断試験を実施した試験片に対し、SEM(Scanning Electron Microscope、走査型電子顕微鏡)を用いて微細組織観察を行いました。結果は、鈴木先生が手掛けた分子動力学解析の結果と一致し、高温クリープのRaft化の一因はγ/γ’相界面において、ひずみが原因となり、Al原子が拡散する現象であることが明らかになりました。「これまでの材料開発は、経験則に基づいて行われてきたという経緯があります。私たちが目指す界面組織制御技術は、構成原子の拡散挙動の面から、材料の劣化・損傷現象の本質的メカニズムを解明するもので、あらゆる材料システムへの適用が可能な普遍的な材料設計技術といえます」。また、材料の安全性・信頼性の評価においても大きな役割を担うものであるとも。「材料が劣化するからといって、使用に耐えるものでもたびたび交換していたのでは、経済的とはいえませんし、なによりも環境にやさしくありません。メカニズムが解明されることで、ここまで使えますよといった安全率が理論的に説明できることになります」。これら研究成果の一部は、日本機械学会M&M2011材料力学カンファレンス、ならびにInternational Conference on Advanced Technology in Experimental Mechanics 2011 (ATEM'11)において発表され、大きな注目を集めました。

 「海外で研究に取り組まれた先生の多くが、日本とは――少なくとも本学とは――異なる研究スタイルについて言及されているようですが、ダルムシュタット工科大学でも、私にとってはまったく馴染みのない“分業・分担スタイル”が徹底されていました。私たちは、準備から実験(掃除や後片付けも含めて)~データ分析~仮説・ストーリー立てまで、一人でやることも多いのですが渡航先では実験は主に技術職員が担当し、事細かに仕事の担当が分けられているのです」。そこで大切になってくるのが「実験・研究計画」です。「ダルムシュタット工科大学では、ちょっとした打ち合わせでもminutes(議事録)を残すようにといわれました。日本では『これ○日までにやります』といった口頭での約束が多いのですが(そして、そのいくつかは忘れ去られたりしてしまうのですが、笑)、渡航先ではタスクを明確にすることが強く求められました。さらにそれを基に、期日と担当者、責任者を明記した計画表やロードマップを作成し、提出しなければなりません」。多くの人が関わる実験だからこそ、目的とその達成のための手段や方法、タイムスケジュールをしっかり説明するように心がけました、と鈴木先生。「私のために時間を割いていただくわけですから『何のための実験?』とか『おもしろくないな』と思われることだけは避けたかったんですね。コミュニケーションの本質が立ち現われるように思われました」。

 「研究スタイルとは違えど、研究哲学やスタンスは共通するものが多かったことが印象的でしたね。滞在中は公私にわたり多くのサポートをいただきましたし、海外からのゲストや留学生を迎える際に見習いたいと思う点も多くありました。実験科学による材料強度研究においてEU圏内で主導的な役割を果たしているダルムシュタット工科大学との人的ネットワークを築けたことは、研究成果と並ぶ大きな収穫でした」。東北大学の世界的にも高い研究レベルを再認識できたと語る鈴木先生。体感した等身大の自負は、学生さんたちにも伝えられていくことでしょう。

(写真/図3)Ni/Cu薄膜試料の作製に使用した装置。MBE apparatus for fabricating Ni-Ti/Cu stacked thin film structures

(写真/図4)クリスマスランチの様子。この後、12月20日から1月10日ごろまでクリスマス休暇となる。