充放電による蓄電池電極劣化の経時的進行を3次元でとらえる新技術を開発

- 全固体電池をはじめとした次世代型蓄電池の長寿命化に貢献 -

2023/07/19

発表のポイント

  • 蓄電池の電極は極めて複雑な微細構造を有しており、その中で生じる劣化も空間的・時間的に不均一なため、その挙動を正確に計測することは極めて困難でした。
  • 本研究では、放射光注1を利用した最先端の化学イメージング技術を駆使し、充放電による蓄電池電極劣化の経時的進行を3次元でとらえる新技術を開発しました。
  • 本技術は、劣化が、電極内のどこで、いつ、どのように起こるかを詳細に理解することを可能にするため、全固体電池など次世代型蓄電池の長寿命化に貢献することが期待されます。

概要

スマートフォンなどの携帯電子機器の充放電を繰り返すと、次第に電池残量の減りが速くなります。この大きな原因の一つとして、これらの機器に搭載されている蓄電池の蓄電容量などの性能が、繰り返し充放電に伴い、次第に劣化していくことが挙げられます。このような性能劣化のメカニズムを理解することは、リチウムイオン電池や、全固体電池をはじめとする次世代型蓄電池の長寿命化を実現する上で重要な課題となっています。

東北大学を中心とする共同研究グループは、コンピュータ断層撮影―X線吸収微細構造法(CT-XAFS法) 注2を用いて、充放電サイクル中の蓄電池電極内の容量劣化(活物質のLi量の変化)の3次元的な空間分布およびその時間進展を非破壊かつ定量的に追跡できる手法を開発しました。これにより、蓄電池の劣化に関する5次元の情報(3次元空間分布+時間発展+化学情報)を解析することが初めて可能となり、劣化がいつ、どこで、どのように起こるのかをより詳細に理解できるようになりました。本手法は、全固体電池などの蓄電池の長寿命化への貢献が期待されます。

本成果は、2023年7月14日(ドイツ時間)に、マイクロからナノメートルスケールの解析技術専門誌Small Methods誌に掲載されました。

本研究は東北大学多元物質科学研究所の木村勇太助教、石黒志助教、中村崇司准教授、雨澤浩史教授、大学院工学研究科機械機能創成専攻の黄溯大学院生、高輝度光科学研究センターの関澤央輝主幹研究員、新田清文研究員、宇留賀朋哉任期制専任研究員、産業技術総合研究所の奥村豊旗主任研究員、竹内友成上級主任研究員、名古屋大学の唯美津木教授(理化学研究所放射光科学研究センター客員研究員)、京都大学の内本喜晴教授らの共同研究グループにより行われました。

研究の背景

リチウムイオン電池や、次世代型蓄電池の筆頭と目される全固体電池は、カーボンニュートラル社会の実現やSDGsなどの社会課題の解決を目指す上で不可欠な技術要素です。こうした蓄電池は充放電を繰り返すと、次第にその性能が劣化していくことが問題となっています。これら蓄電池の長寿命化を実現するためには、充放電時に生じる性能劣化のメカニズムを明らかにすることが重要となります。

しかしながら、こうした蓄電池の電極は、イオンを貯蔵・排出する活物質、イオンを輸送する電解質、電子を輸送する導電助剤などの複数の構成材料の粒子が入り乱れた極めて複雑な微細構造を有しています。そのため電極中で生じる劣化も空間的・時間的に不均一になってしまい、その挙動を正確に計測することは極めて困難です。

現状では電気化学インピーダンス法などの電気化学測定手法によって電極内で不均一に生じる劣化を平均化した情報として抽出するか、あるいは電極を破壊して一部を取り出し、電子顕微鏡などを用いて、そのごく限られた領域の劣化を分析することしかできませんでした。

今回の取り組み

本研究では、大型放射光施設SPring-8注3のBL37XUで得られる高輝度なX線を活用し、最先端の化学イメージング技術であるCT-XAFS法を駆使することで、充放電サイクル時に、蓄電池電極内の数百µm3~数mm3ほどの同一観察領域における活物質の充電状態(Li量)の3次元的な空間分布およびその時間進展を、数µm、数十分の空間・時間分解能で非破壊かつ定量的に追跡できる手法を開発しました(図1)。

これにより、蓄電池の劣化に関する5次元的な情報を非破壊で取得することが初めて可能となりました。本手法により得た一連のデータに対して差分画像解析注4を行うことで、各充放電過程において、どこでどの程度劣化が生じたかを3次元的に可視化できます(図2(a))。さらに、例えば、充放電サイクル初期にどのような反応履歴を辿った箇所が、後のサイクルでより劣化しやすいか、といった、電極劣化と過去の反応履歴との関係も調べることができます。それに加え本手法では、電極の微細構造の情報も同時に取得できるため、電極のどこでどのような劣化が起こりやすいかといった、劣化と電極の微細構造との関係も分析できます(図2(b))。

このように電極内の同一観察領域における反応の進展を、蓄電池充放電時に非破壊で追跡できるという本手法の特長により、電極の劣化が、いつどこでどのように生じたかを電極微細構造や過去の反応履歴と絡めて詳細に分析することが初めて可能となりました。これにより既存の手法では得られなかった蓄電池の劣化メカニズムに関する重要な情報が得られることが期待されます。

今後の展開

今回開発した手法で蓄電池の劣化要因を特定することにより、従来のトライ&エラーに頼ってきた蓄電池開発から脱却し、迅速かつ効率的に蓄電池の蓄電容量の向上および長寿命化が可能になると期待されます。また、本技術は、高い拡張性・汎用性を有しており、蓄電池のみならず燃料電池や触媒など、様々なデバイス・材料の長寿命化への貢献も期待できます。


図1 測定対象とした全固体電池の模式図(左上)とその充放電曲線(右上)、CT-XAFS法により可視化した、充放電サイクル時の充電・放電後における3次元充電量マップ(下)。図中の赤い/青い領域はそれぞれ、充電量が高い/低い領域を表す。充放電曲線では読み取れなかった劣化の空間分布およびその経時的進行を、3次元的に可視化することが可能となった。

図2 (a)3次元充電量マップの差分解析の模式図、(b)電極の劣化と、電極微細構造および反応履歴との相関分析の一例。

謝辞

本研究は、JST 先端的低炭素化技術開発・特別重点技術領域「次世代蓄電池」(ALCA-SPRING、JPMJAL1301)、JST 未来社会創造事業(JPMJMI21G3)、JSPS 科研費 JP22K05283の支援を受けたものです。

用語説明

(注1)放射光

電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波。

(注2)CT-XAFS法

X線が物質を透過する性質を利用して、対象物を破壊することなくその内部を3次元的に可視化する技術であるX線コンピュータ断層撮影(CT)法と、X線のエネルギーを変えながら吸収量を計測することでX線吸収スペクトルを得て、それを元に対象物の化学状態を分析する技術であるX線吸収微細構造(XAFS)法を融合した最先端の化学イメージング技術。この手法を用いることで、3次元物体の内部の任意の領域におけるX線吸収スペクトルを得ることができ、それを元に対象物内部の化学状態の分布を3次元的に分析できる。

(注3)大型放射光施設SPring-8

兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。高輝度光科学研究センターが利用者支援などを行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。

(注4)差分画像解析

異なる2つの画像の各ピクセル値の差を画像化した差分画像を元に、それぞれの画像の性質の違いや変化量を解析する手法。

論文情報

タイトル: Five–Dimensional Analysis of Capacity Degradation in Battery Electrodes Enabled by Operando CT–XANES
著者: Yuta Kimura*, Su Huang, Takashi Nakamura, Nozomu Ishiguro, Oki Sekizawa, Kiyofumi Nitta, Tomoya Uruga, Tomonari Takeuchi, Toyoki Okumura, Mizuki Tada, Yoshiharu Uchimoto, and Koji Amezawa
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 木村勇太
掲載誌: Small Methods
DOI: 10.1002/smtd.202300310
URL: https://doi.org/10.1002/smtd.202300310

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東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
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