和田 仁
東北大学 教授
機械系長
東北大学工学部の始まりは、1906(明治39)年、旧制専門学校のひとつとして設置された仙台高等工業学校にまでさかのぼります。1912(明治45)年、東北帝国大学(1907年創立)に移管されたのを機に「東北帝国大学附属工学専門部」と改称。1919(大正8)年、東北帝国大学に設置されるに伴い、機械工学科、電気工学科、化学工学科、鉱山学科を擁する学部として、わが国の工学の発展に寄与してきました。1953(昭和28)年には大学院工学研究科が設置され、その後、幾度かの改組を経て、複数の研究科、専攻等にまたがる分野横断的な教育・研究組織に成長し、一体運営されています。まさに大学の歴史とともに歩を進めてきた伝統と実績のある学科です。
現在、大学院工学研究科・機械系は、機械システムデザイン工学専攻、ナノメカニクス専攻、航空宇宙工学専攻、バイオロボティクス専攻の工学研究科4専攻、情報科学研究科、環境科学研究科、技術社会システム専攻、医工学研究科の関連研究室から構成されています。機械工学の基礎に立脚しながら、デザイン、エネルギー、ナノテクノロジー、材料科学、シミュレーション科学、スペーステクノロジー、バイオエンジニアリング、ロボットなど、さまざまな機械工学のフロンティアの拡大を目指しています。世界最高レベルの研究教育環境の下、多岐にわたる工学分野の研究に取り組む私たちの支柱となっているのが、本学が建学以来一貫して掲げる「研究第一主義」「門戸開放」「実学主義」の3つの理念です。広く開かれた大学として、科学技術の発展を実現し、豊かな社会づくりに資する研究にまい進するとともに、将来を担う優れた人材の育成に努め、多くの才能と個性を輩出してきました。
現在、わが国では、科学立国を牽引する人材の育成が急務とされています。求められているのは、科学技術の急速な発展による知の専門化・細分化に対応できる深い専門性と、新たな学問分野に対応できる幅広い応用力を持つ人材です。また、産業界からは高度な専門的知識と企画力をあわせもち、リーダーシップのとれる即戦力が要請されています。大学院における人材養成が一段と重責を帯びているわけですが、“座学から実践へ”をテーマとする大学院教育プログラム「機械工学フロンティア創成」を通じ、学生諸君の多くは新しい経験と知見、視野を獲得する機会に恵まれました。その成果を軽々に人材育成と結びつけることは避けなければなりませんが、貴重な体験となったことは間違いないようです。
研究・教育、そして人材育成は、その道程の長さにおいて共通点を持ちます。いま、本大学院工学研究科に身を置く学生も、いずれ独り立ちの時を迎えることでしょう。本学で学び、体得したことが、将来の道を照らす光明となることを願ってやみません。
吉田和哉
東北大学 大学院工学研究科
航空宇宙工学専攻 教授
東北大学機械系(機械システムデザイン工学専攻、ナノメカニクス専攻、航空宇宙工学専攻、バイオロボティクス専攻および情報科学研究科の一部)では、2007年度より「機械工学フロンティア創成」と名づけた新しい大学院教育プログラムを実施しています。文部科学省・大学院教育改革支援プログラムに採択されたこの取り組みの背景には、資源に乏しいわが国を人材立国として発展させ、国際競争力に秀でた人材、リーダーシップのとれる即戦力を育成する、という教育施策・目的があります。本プログラムでは、このような時代の要請に対する答えとなることを目指して、大学院にて新しい教育への試みを実践しました。
「機械工学フロンティア創成」プログラムの大きな柱として「機械工学フロンティア」と名づける新しい授業科目を開設しました。これは修士(博士前期課程)1年生を対象に、修士研究の導入となるようなミニ・プロジェクトを1学期に実施するものであり、最初に明確な達成目標を定め、3~5名でチームを組み、メンバー間で作業を分担・協力し、半年間という限られた時間で結果を出すことが求められる目的達成型の研修を行いました。研修のテーマは、「航空宇宙」「ロボティクス」「ナノテクノロジー」「バイオ」や「医工学」など、機械工学の基礎から先端的な応用に至るまで幅広い分野をカバーしています。毎年100名を超える、入学直後のフレッシュな大学院生がそれぞれ希望するテーマに分かれて、実践的な研修活動を行いました。一部のテーマでは、研修の成果を携えて外国の大学を訪問し、学生セミナーなどの研究交流も企画・実施しました。
また、従来の修士研修に代わる新たな選択肢として「イノベーション創成研修」と呼ぶ授業科目も導入しました。第1学期の「機械工学フロンティア」が入門のための研修であるとするならば、「イノベーション創成研修」はより大きく、より広く若い芽を伸ばすための研修であるということができます。この研修では、博士後期課程に進み、さらに研究を究めようという志気の高い学生を対象に、海外の大学や研究機関への派遣研修を実施し、“世界の中での自分” を意識しながら、今後の研究の糧となるものを学んでもらう機会を提供しました。
本プログラムの取り組みは、学生にとっても教員にとっても試行錯誤の連続となりました。しかし、自らの手を動かして「ものづくり」を行うこと、そして物事を達成する喜びを皆で分かち合うことが、機械工学における教育の原点であるとの認識を新たにすることができました。これは大きな成果であると考えます。
以下の誌面では、2008~2009年度「機械工学フロンティア創成」の取り組みの一部をご紹介します。多くの得難い経験~失敗、挫折、成就を通じ、学生が何を感じ、どのように考えを深め、成長していったのか。また、教員はどんな想いで見守り支えたのか…
熱き意志と情熱をお感じいただければ幸甚です。