ものづくりのフロンティアをゆく!

エンジニアのための分子細胞生物学・解剖生理学の実体験プログラム

海外研修
GEM4サマースクール
(アメリカ、カリフォルニア工科大学)
2008年7月21日〜7月25日

工学的に生命現象を学ぶ医工学。
医学的手法では解明が
果たされない諸問題に
力強くアプローチ。


写真1 山口隆美教授

写真1 山口隆美教授

医学と工学を“橋渡し”する人材の育成を。
医工学研究科、誕生。

 「健康な人には病気になる心配があるが、病人には快復するという楽しみがある」とユーモアたっぷりに語ったのは寺田寅彦※1。多くの人にとって、治癒・快復の舞台となるのが病院です。ここでは、疾病の診断・検査から治療、監視に至るまで、多種多様の医療機器が使われます。時には、私たちの生命すら高度医療機器に委ねられます。
 「医は仁術」ならぬ「医は技術」。工学技術は、現代医学・医療の進歩と分かちがたくあります。そして、さらなる発展・充実のためには、医学と工学の融合研究が不可欠です。
 これまで工学技術を具体的医療に展開・応用するにあたっては、医療従事者が先導的な役割を果たしてきました。つまり医療機器の開発という側面において、医学者と工学者が協調・協働して進めてきたとは言いかねるケースが多く散見されたのです。そうした現場をつぶさに見てきたのが、10年間の臨床外科医の経験を持つ山口先生(大学院医工学研究科 医工学専攻、教授)です。「日々患者さんと接して経験知を積み上げている医師と、数学と自然科学を基礎として理論を展開していくエンジニアでは、意思疎通が難しいのは当たり前です。同じ事象を話し合うにも、基礎的理解と視座が異なることもしばしばで、これでは“言葉が通じない”ということになります。医学と工学の発想法や思考形式の違いを本質的に理解し、“橋渡し”する人材の育成が急務です」。さらには、患者利益と産業・経済面からの要請も見逃せません。「医療機器は人体に及ぼす危険度に応じて、国際的なクラス分類がなされていますが、高度医療機器の多くは、現在、輸入に頼らざるを得ない状況にあります。心臓ペースメーカー※2や人工血管、インプラントなど体内に入れる器械・器具の90%は海外製品という数字があります。そうなると看過できない問題も起こります。例えば、米国で開発されている人工心臓は、サイズが大きく、日本人には適用できないこともあるのです」と危機感を募らせています。医学生物学と工学の境界領域を埋めるとともに、これらを深く融合させる人材の育成を…そうして誕生したのが、日本初となる東北大学の医工学研究科です。
 2008年4月1日、東北大学に開設された医工学研究科は、物理学、化学、生物学を学術基盤とし、工学と医学/生物学が融合した新しい教育・研究の学問領域です。工学の知識や技術を駆使して、生命の不思議に迫り、その機能を科学的に解明することにより、革新的な医学と工学の発展を目指しますが、単にふたつの領域の知識の吸収・修養ではなし得ない、新しい学問分野であるといえます。さらには、人類の社会福祉に貢献するという使命・責務をも帯びています。これまで医工学は、学際領域といった捉え方をされていましたが、今後は、ひとつの大きな学問研究体系として発展することが期待されています。
 まさに先端的な教育・研究組織である東北大学医工学研究科。しかし、その萌芽はすでに80年余前に芽生えていました。1925(大正14)年、医学と工学の共同研究に端を発した電気聴診器が開発され、医工連携の先駆けとして、東北大学は広く知られることとなったのです。“伝統”のうえに加えられる新たな研究・開発の取り組み。原動力は、飽くなきチャレンジ精神と先見力、開かれた教育・研究体制です。医工学研究科では、以下の10領域(講座)における研究を推進します。

●計測・診断医工学

新たな医用計測・診断方法の開発とその基礎となる理工学

●治療医工学

治療に用いられる方法の開発とその基礎となる理工学

●生体機械システム医工学

機械システム工学的アプローチによる生体システムの研究

●生体再生医工学

細胞・組織の再生、機能再建ならびに生体機能を制御する情報工学技術

●社会医工学

社会医療システムの改革をめざす技術革新およびその応用

●生体流動システム医工学

複雑な流動システムの理解に基づく、循環系疾患のメカニズム解明やその予防および治療法の確立

●人工臓器医工学

生体の機能を再生し生命を維持するための人工臓器の開発と新しい治療方式の開発

●生体材料学

生体適合材料の設計と開発および評価

●生体システム制御医工学

生体システムのモデリング、医療システムの制御技術および高機能なヒューマンインタフェース

●生体情報システム学

生体による情報処理機能の解明と医工学への応用

教育課程と進路
※1
てらだ とらひこ、1878(明治11)年11月28日- 1935(昭和10)年12月31日。日本の物理学者、随筆家、俳人。「天災は忘れた頃にやってくる」も寺田の言葉と伝えられる。
※2
心筋に電気刺激を与えることで、必要な心収縮を発生させる装置。バッテリーとICを含む本体部分とリード線から成る。恒久的な使用を前提とした体内埋め込み式のものと、一時的な使用を前提とした体外式のものがある。

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