ものづくりのフロンティアをゆく!

自律探査ロボットとフィールド実験

海外研修
ARLISSカムバック・コンペティション
2008年9月15日〜9月19日

さぁ、深宇宙へ。
わが国の宇宙開発ミッションと結びつく
ロボットの研究開発に取り組む。


図6

写真6 米国のアマチュアロケット協会からの協力を得て、打ち上げ。

図7

写真7 ブラックロック砂漠のあちこちに出現する轍。小さな体で健気に進むローバーの泣きどころ。

図8

写真8 ゴールの標識塔にぶつかってゴール!

図9

写真9 どこまでも続く青い空に向かって「やったー」。苦労が報われた瞬間だ。

決してあきらめない。
夜を徹しての調整作業の末、見事優勝!

 2008年のローバー開発にあたっては、不整地の走破性、走行スピードの向上、パラシュートの切り離し機構などの改善に向け、大きく以下の点において改良・工夫を施しました。

  1. 放出時に車輪径を拡大できる(180ミリメートル)柔軟性・弾力性に優れるスポンジ素材を採用
  2. 搭載するバッテリー、モーター、ギア比の変更
  3. 車輪径の拡大とパラシュートの分離を同時に行う機構。紐は、電熱線による焼き切り方式を導入

 1.2により、ローバーは、最高走行速度17キロメートルを達成。実績は平均時速10キロメートルに留まりましたが、これはライバルである他大学の追随を許さない速さでした。
 大きな期待とともに臨んだ1回目のトライアルは、大きな轍に乗り上げ、動作不能に。この問題を解決するため、その夜から、スタック回避機能の追加に取り掛かりました。夜を徹しての作業、ギリギリまで調整が続きました。「不測の事態に備えて、日本から持ち込んだ機材・材料が役に立ちました」と学生は語りますが、出発直前まで準備に追われて、砂漠には欠かせない帽子を忘れてきてしまった、というオチがつきます。三日後の2回目トライアルでは、ゴールのパイロンにぶつかって見事フィニッシュ、優勝!(写真8、9)。当初の予定ではGPSの誤差範囲内であるゴールから3メートル円内で停止するはずで、ぶつかったのはうれしい偶然でした。
 「当コンペティションは、風の影響や地面のコンディションに左右されるところが大きく、私自身は“成績よりも内容”だと言い続けてきました。ロボティクスとは工学全般を網羅する複合的な領域。実機を動かしてみて初めてわかることも多いのです。そういう意味では、イチからモノをつくるという醍醐味を味わえた稀有な体験、それも成功体験だったのではないでしょうか。最も体得してほしかった、自らが積極的に求めていく姿勢も養えたのではないかと思います。ものづくりに必要な“センス”を磨くことにもつながったかもしれませんね」と永谷先生(大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻、准教授)。一方、参加した学生は「無から新しいものを生み出す苦しみ、そしてグループが一丸となってひとつのことに取り組む難しさを感じました。とりわけ今回は、新しいフェーズ(スタック時のエスケープモードを現場で導入)への臨機応変な対応を求められたりなど、なかなかタフな経験になりました」と語ります。最後に吉田先生(大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻、教授)は「時間的な制約がある中で、一人ひとりがしっかり“持ち分”を担っていたように思います。また、プロジェクトマネジメントという意味を、光と影の両面において、体感できたのではないでしょうか。実際にフィールドに飛び出していく目的達成型の取り組みは、これから学生が研究を進める上での道標となってくれるはずです」と、労いの言葉とともに締めくくりました。

 この取材から2日後、月周回衛星「かぐや(SELENE)」から送られてきた半影月食※5の映像(JAXA、NHK)が公開されました。この現象が月から撮影されたのは、世界で初めて。地球がダイヤモンドリングのようにキラリと光った美しい瞬間です。日進月歩の宇宙開発、今、大学・大学院で学ぶ若き才能と可能性が、その輝きを発揮するのももうすぐ、かもしれません。

写真9

写真10 左から遊佐淳也さん,大西智也さん,前田敏博さん,永谷圭司准教授。
「プロジェクトが暗礁に乗り上げているときにはアドバイスもしますが、学生たちの独自の発想や自主性を損なってはいけませんから、さじ加減が大切ですね」と指導に当たった永谷先生。

取材日:2009年2月16日


※5
月のすべての部分が地球の本影へ入る「皆既月食」、月の一部が本影に入る「部分月食」とは異なり、太陽光の一部によって地球の影が生じる「半影」の中に入ることで生じる月食。地球側から見た場合、月は欠けるのではなく、通常よりも暗めに見える程度。

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