ものづくりのフロンティアをゆく!

火星探査のための飛行システムと制御法の検討/第5回全日本学生室内飛行ロボットコンテストへの挑戦

海外研修
パデュー大学(アメリカ・インディアナ州ウェストラファイエット)
ノートルダム大学(同サウスベンド)
2009年10月18日〜10月25日

めざせ、空と宇宙へ。
躍動する航空宇宙研究のフロンティアで、
未来の風を捉える。


自分たちの力で、空にもっと近づく!
夢を、夢で終わらせないための挑戦。

 禅の心を伝える言葉のひとつに「平歩青霄(へいほせいしょう)」があります。「青霄」とは青く澄み切った空、「平歩」とは普通に歩く様子をいいます。つまりは青空の下を軽々と歩いていくこと。もちろんそんなことは通常不可能ですが、できるかできないかというとらえ方ではなく、空を悠然と歩いてみせよう、という気構えの大切さを説いています。今も昔も変わらない大空への夢。しかし私たちは、科学技術の進歩と発展によって、空想の世界から飛び出し、リアルな空の世界を飛翔する“翼”を得ました。そしてここにも、自分たちの力で「平歩青霄」を叶えようと挑戦する若者たちがいます。

写真1

写真1 プラズマアクチュエータの原理

図1

図1

写真2

写真2 左翼のプラズマアクチュエータを作動。模型飛行機が右側にロール・旋回することを確認・実証した。

火星探査のための飛行システムと
制御法の検討
浅井・沼田/永井研究室〔Team MAVERIC〕

 近年、火星探査の新しい方法として火星飛行機の可能性が検討されています。地球は大きく異なる火星の大気環境下では、高い揚力を発生させるための剥離の制御や、流れの変動に対するロバスト性※1を向上させるための能動的な流体制御手法の確立が必要不可欠です。浅井・沼田/永井研究室では、これらの問題を解決する手段として、プラズマアクチュエータによる制御技術の研究に取り組んでいます(写真1)。機械工学フロンティア研修では、RC模型飛行機に搭載したプラズマアクチュエータを片翼ずつ作動させ、揚力差を発生させることにより機体をロール・旋回させる飛行制御に挑みました(図1)。
 まず、翼上に取り付けるプラズマアクチュエータの貼り付け方法を10パターン検討し、実際に翼模型に貼り付け、風洞※2実験によってそれぞれの揚力を比較、最も効果的なものを選定しました。次に、駆動用小型電源とともに、模型飛行機にプラズマアクチュエータを搭載。フライトテストを行うことでその効果を実証しました(写真2)。ひとつの研究テーマに数名のチーム体制で取り組むのは初めてだったという荻田さん。「各々が分担している仕事や役割の進捗状況を、お互いに確認し、調整していく作業が必要だったのですが、それがなかなかうまくいかず、最終的な目標を達成できませんでした」とプロジェクト型研修の難しさを挙げました。

写真3

写真3

図2

図2

第5回全日本学生室内飛行
ロボットコンテストへの挑戦
大林・鄭・下山研究室〔Team SHIGERU Ⅱ〕

 東北大学としては初の参加となる「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト(以下、飛行ロボコン)」は、航空機型ロボットによる競技大会。5回目となる2009年は、海外大学含め48チームのエントリーがありました。
 機体レギュレーション(規定)には「オリジナル設計の自作機で飛行機タイプ(固定翼)のみ」「離陸時の機体重量は200g以下」「動力は、電動モーター、バッテリー、プロペラを使用」「遠隔操縦は、市販のラジコン送受信機で制御」他が示されており、それらをすべて満足させなければなりません。競技ルールは、救援物資に見立てた複数のお手玉を指定のエリアにそれぞれ輸送したのち、3つのミッション(宙返り、手放し飛行、ゲート通過)に挑戦します。「つまりは“高機能でありながら”“軽い”という背反する条件を満たす機体をつくらなければなりません」と大会に出場した宮内さん。SHIGERU Ⅱは、バルサボックス桁とカーボンフランジI型トラス、およびマイラーフィルムによる軽量化を図りました(写真3)。また設計に関しては、超低AR機の翼端渦※3を利用して有効迎角※4を小さくし,大迎角・低速での飛行を目指しました(図2)。大会結果は残念ながら満足のいくものではありませんでしたが、後述するパデュー※5・ノートルダム※6両大学での発表では、大きな興味と関心をもって迎えられました。


※1
外乱や設計誤差などの不確定な変動に対して,制御性を損なわずに、システム特性を維持すること。
※2
人工的に小規模な流れを発生させ、実際の流れ場を再現・観測する装置または施設。縮小模型などの試験体を置き、局所的な風速や圧力の分布・力・トルクの計測、流れの可視化などを行う。通常は筒型の構造のなかに、流れを作り出す送風機、流れを整える整流器、測定を行う測定部が設置されている。
※3
翼が空気中を進行する際、通常、翼表面では下面の圧力が上面の圧力より大きくなり、その圧力差によって翼端部では翼の下面から上面に向かって流れる渦が生じる。これを翼端渦(よくたんうず)という。
※4
気体中の物体が、流れに対してどれだけ傾いているかという角度をあらわす値。翼の場合、前縁と後縁を結んだ線(翼弦、コード)と一様流とのなす角で示される。これを迎角(むかえかく、げいかく)という。
※5
Purdue University。1869年創立。リンカーンの農業・工業発展政策に応じて、インディアナ州が設立。地元の篤志家ジョン・パデューの寄付を受けて発展した総合大学。特に航空宇宙開発においては世界的な知名度を誇り、ニール・アームストロング、ユージン・サーナンをはじめ20名以上の宇宙飛行士を輩出している。
※6
University of Notre Dame。カトリック教会創設の名門私立大。時事解説誌が毎年行う大学総合ランキングでは全米トップ20の常連。工学分野ではプラズマアクチュエータのほか、MICRO UAV(無人航空機)の研究でも名を馳せている。アメリカンフットボールを始めとしてスポーツの名門校としても全米屈指の知名度を誇る。

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