ものづくりのフロンティアをゆく!

経年劣化Ni基超合金の高精度非破壊評価システムの開発

海外研修
東北大学-リヨン サマースクール
2009年9月1日~9月11日

研究に国境はない。
グローバルな時代に必要とされる
異文化への敬意と理解を、
自らのまなざしと体験を通じて養う。


写真2

写真2 学術講義の様子。「フランスの先生は、与えられた時間に関係なくずっとお話しなさいますね。タイムキーパーとしては、話を切り上げていただくのがたいへんでした」と和田先生。

写真3

写真3 プレゼンテーションの様子。「みなさんとても熱心に耳を傾けてくれました。新しい知識・知見を吸収しようという熱意が強く感じられました」と恩地さん。

写真4

写真4 ディスカッション。「話す以上に、英語の聞き取りに苦労しました」と高橋さん。

研究成果を堂々と発表するも、相手の英語が聞き取れない…手痛い外国語の洗礼。

 本学からは20名の大学院生(博士課程前期8名、後期12名)と11名の教員・職員が参加。また、ECLとINSA-Lyonからはそれらに倍する教員と学生が参加して、東北大学−リヨンサマースクールはスタートしました。そのカリキュラムの核となったのが、INSA-Lyon、ECL、本学の教員によるアカデミック・コンファレンス/学術講義(写真2)と、参加学生による15分のプレゼンテーション、ならびに10分間のディスカッションです(写真3、4)。もちろん使用言語は英語。「学術講義に関しては、自分の専門外の領域についても聴講することになりますが、深遠なるサイエンス&テクノロジーの世界を知る好機となったのではないでしょうか。自分たちが今研究しているのは非常に限定的な分野なのだという、新しい視座を獲得することに結びつけばと願っています」と和田先生はお話しくださいます。恩地さん曰く「日仏それぞれの先生方の講義を拝聴して感じたことは、日本の先生の発表のほうがよく練られ、しっかりと構成されていたなぁということでした。学生に理解してもらおうという熱意が感じられました」。「もちろん贔屓目ではなくて」という言葉に、和田先生、高橋さんも頷いていました。
 「機械工学フロンティア創成プログラム」の一環として参加を果たした恩地さんと高橋さん。渡仏前は、発表の準備に追われていたという研究テーマは『経年劣化Ni基超合金の高精度非破壊評価システムの開発』。ここでその内容についてご説明しましょう。


 現在、発電用1100~1300℃級のガスタービンに広く採用されている動翼用材料(Ni基超合金)は、高温環境下での高速回転が原因のクリープ※4、起動停止や負荷変動が影響因子とされる熱疲労により、劣化・損傷を受けることが知られています。こうした材料変化を正確に把握することで、合理的に寿命を評価し、機器・構造物の長期信頼性を確保することが求められており、これらの課題に対応する手法が、非破壊評価技術です。
 さてここからは少し難しくなります。Ni基超合金は金属間化合物γ’相を析出させることで高温強度を高めていますが、前述のクリープ損傷したものにはγ’相の粗大化およびラフト化が発生します。この変化によって、電磁特性などの材料特性に変化が生じる可能性があり、高感度評価技術を用いることによって、微細組織の変化を起因とする材料特性変化を見分けられないかと考えました。
 恩地さんと高橋さんのグループは、多結晶Ni基超合金INCONEL 738LCを対象材料とし、クリープ試験(試験温度900℃、荷重156MPa)を実施。時間経過63h、126h、441hで試験片にγ’相の粗大化が、441hでラフト化の発生を確認しました。それら試験片を用い、集中誘導型交流電位差法(ICFPD)ならびに渦流深傷法(Eddy current testing)による計測を行いました。すると後者の手法において、試験片の電位の変化がみられ、γ’相の粗大化およびラフト化による影響と推測するに至りました。

写真5

写真5 大学内カフェテリアでの食事。「一日として同じメニューは出ないほどバラエティに富んでいましたが、残念ながら『おいしい!』と感じるほどではありませんでした」と恩地さん。「1週間も過ぎると、日本のお米が恋しくなりましたね」と高橋さん。

 「クリープ試験には何百時間という時間がかかるので、計測してもなかなか有意な結果が出ないときは焦りました」ということでしたが、取り組みの結果はしっかりと資料にまとめあげて乗り込んだリヨン。「英語はあまり得意ではないではありませんが、プレゼンテーションは専門用語が多いので、日常会話よりは伝わりやすいと感じました。でも、ナチュラルスピードの英語のリスニングは難しかったです」と反省の弁。しかし、和田先生からは「博士課程前期の学生さんは、公の場で英語によるプレゼンテーションする機会はあまりないと思います。指導教官のいないところで、よくがんばったと思います。とても興味深い発表でした」とお褒めの言葉をいただきました。少しは苦労が報われたでしょうか。



※4
creep。物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象。

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