機械系に所属する研究室をピックアップしてご紹介します。
※機械知能・航空工学科パンフレット内の記事「研究室PICK UP」のアーカイブになります。
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生物が先導する“ものづくり革命”
機械システムコース 准教授 水谷 正義生物が先導する“ものづくり革命”
機械システムコース 准教授 水谷 正義
皆さんは「バイオミメティクス」という言葉をご存じでしょうか?日本語では「生物模倣」と言って、太古から進化を続けてきた生物や植物の構造や機能、行動などを丁寧に観察・分析し、そこから着想を得て新しい技術開発に活かす科学技術のことです。例えば“蛾の目(モスアイ)”は光を反射しないという特殊な機能を持っていますが、これにももちろんちゃんとした理由があります。実は蛾の目には数100nm程度の直径を持った円錐状の構造(モスアイ構造)が無数に存在していて、これによって無反射という機能を産み出しているのです。この機能は実際、スマートフォンやタブレット、あるいは道路標識など、皆さんの身近なところに活用されています。それ以外にも、ハスの葉は「水をはじく」という機能を持っていますし、サメの肌は「流体抵抗を減らす」機能を持っているなど、生物たちはその進化に合わせて非常にユニークな機能を身につけているわけです。
では生物の持つ機能の鍵になるのは何でしょうか?その秘密は表面に存在する非常に小さい構造です。先ほど紹介したハスの葉もサメの肌もこうした構造を持っており、それが機能を発現させているのです。つまり、表面に微細な三次元構造が存在することによって、その生物が持つ機能を飛躍的に向上させる、あるいは今までに持ちえなかった機能を持たせることが可能になるわけです。
私たちの研究室では、こうした生物が産み出す最先端の機能を“ものづくり”に活かすという研究を進めています。従来の「図面通りにものをつくる」というだけでなく、それにプラスαのエッセンスを加えること、つまり、ものづくりの中に「バイオミメティクス」の考え方を導入して、創られた製品の表面に生物からヒントを得た特殊な構造を創り「機能」を与えるようなものづくりにチャレンジしています。今まさに道の途中、日本のお家芸と言われる“ものづくり”に革命を起こしましょう!
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「どこでも発電」「いつでも健康診断」を目指して
ファインメカニクスコース 教授 三浦 英生 ・ 准教授 鈴木 研「どこでも発電」「いつでも健康診断」を目指して
ファインメカニクスコース 教授 三浦 英生 ・ 准教授 鈴木 研
人類の果てしない欲求を満たすために、様々な科学技術開発が進展し、大量生産と大量消費、大量廃棄による快適な人工環境の創生と自然破壊が同時並行で進行してきました。自然界のバランスが大きく崩れつつある中で、私たち工学分野で研究開発を推進する者は、人類社会の維持発展に資する新たな知識や技術の開発を、自然界とのバランスを意識しながら進めることが強く求められています。
「必要なものを必要な量だけタイムリーに」生み出す技術、「地産地消」により自然に無駄な余剰物を廃棄しない技術、そのような視点から、新たなエネルギーの創生を目指しています。基本材料は、高価なレアメタル等は一切使用しない、炭素の六員環を基本構造としたカーボンナノマテリアルを使用しています。炭素一原子の厚さで六員環が二次元空間で周期的に結合したグラフェンと呼ばれる材料を、ナノスケールのリボン状に加工すると、寸法に依存して半導体的な性質が発現し、その構造に歪みを作用させると電子物性をさらに可変制御できます。この歪み誘起の電子物性制御という機械工学と材料工学、電子工学分野の学際研究を基盤として、従来にない小型軽量で高効率な発電デバイスを大変形可能なプラスチックフィルム上に形成する技術開発を進めています。これにより将来Tシャツやバックパック表面に発電デバイスをプリントし、「どこでも発電」を実現したいと考えています。
さらに、このナノスケールに加工したグラフェンという材料は様々な分子を吸着する性質も有しており、吸着によって電気抵抗が変化するという特異な現象も発現します。この現象を利用すると、微量な汗や血液、あるいは唾液の中に含まれる有害物質やウイルス、細菌等の即時分析も可能になる可能性が秘められています。「いつでも健康診断」の夢も膨らんでいます。この研究は機械工学と化学工学等の幅広い分野を横断する学際研究になると信じて日々研究開発に精進、挑戦しています。
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「人から学ぶロボティクスとAIの融合
ロボティクスコース 教授 林部 充宏人から学ぶロボティクスとAIの融合
ロボティクスコース 教授 林部 充宏
近年のAI技術の進歩により、ロボティクス分野においてもその社会実装が期待されております。一部の単純タスクについては確かにディープラーニングをはじめとする画像認識の精度の画期的飛躍により、その実現性は確かに高まってきました。その一方で研究を進めれば進めるほど、人と生物の未知の環境への適応機能はそんなに簡単に実装できないものであることに気づかされます。人間の仕事がAIにとってかわる日がやってくるなどと言われることもありますが、人間が何気なく行っていることを、同じようにAIにやってもらうことは、現段階ではできていません。人間は自分の経験に基づいて予測して環境適応し、効率的に動くことができます。生物や人間の環境適応メカニズムや運動学習メカニズムは非常によく設計されており、ここから学ぶことはまだまだ多くあります。また実際にロボットを用いた実世界応用を行うことで、ある機能が果たす役割がある時とない時とでどう異なる振る舞いとなるかを実験することができます。これはすでにその機能が備わっている生体では確かめられないことですので、ロボティクスを活用することで定量的に各運動機能の最終的な運動タスクの達成度合いへの影響を検証することが可能となります。また生物や人間はうまく省エネルギーを実現しています。今や自動車の評価指標がかつての移動性能だけではなくエネルギー効率性が重要視されているように、ロボットの運動性能評価もいまの機能重視からエネルギー効率性が求められる時代がいずれ来ると考えています。それに先駆けてロボットに運動機能を維持しながら、エネルギー効率の良い運動制御をさせられないものかと日夜研究しております。
人間を知るためにロボティクスを使い、ロボティクスを進歩させるために人間の学習能力の研究を行う。そんな双方向的に科学する研究を行い、人から学ぶロボティクスとAIの融合を実現させるべく挑戦しています。
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宇宙を探査するロボットをつくる
航空宇宙コース 教授 吉田 和哉宇宙を探査するロボットをつくる
航空宇宙コース 教授 吉田 和哉
宇宙は人々の夢をかき立てます。宇宙にはまだ誰も見たことが無い世界が広がり、そこに人類の足跡をつけていくことは、私たちにとっての大きな夢です。私がまだ小学生だった1969年、人類は月面に大きな一歩をしるしました。そしてそれは無人探査機による太陽系大航海時代へとひきつがれ、各惑星の詳細な姿が次々と明らかにされています。特に火星には、複数の探査ロボットが送り込まれ、この赤い惑星にはかつて大洋が存在したことが明らかになってきました。
私は、大学院生時代に「宇宙を探査するロボットをつくる」というテーマに出会い、その夢を追い続けています。小惑星探査機「はやぶさ」の開発に参加する機会を得て、イトカワから岩石の破片を持ち帰るという、わくわくするミッションに貢献することができました。また、「Google Lunar XPRIZE(グーグル・ルナ・エックスプライズ)」という、月に無人探査ロボットを送り込む国際レースに、日本チーム「HAKUTO/ハクト」を率いて挑戦し、その夢にあと一歩のところまで迫りました。
最先端の技術を統合する航空宇宙工学は「工学の総合デパート」と言われます。プロジェクトに参画するメンバーは、自身の専門を探究し、求められる要素技術を磨き上げる一方、プロジェクト全体を俯瞰し、自分の担当している分野が全体と調和し、システムとして機能しているかを判断するスタンスも要求されます。「雷神」「ディワタ」「RISESAT」などの超小型人工衛星を大学内で開発し、宇宙空間に打上げ、大型衛星に負けない成果を挙げてきたことが、私たちの大きな自信につながっています。また、国際的な競争と協力関係も重要な原動力となっています。
宇宙は決して遠い世界ではありません。大学の研究室や、大学発のベンチャー企業が知恵を絞り、努力を続けていけば、必ず手の届く存在だということが証明されつつあります。それを実現できるのは、皆さんの若き力と情熱です。私たちと一緒に、宇宙探査の夢をかなえていきましょう!
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マイクロ・ナノ技術で新しい医療を作る、健康になる。
機械・医工学コース 教授 田中 徹マイクロ・ナノ技術で新しい医療を作る、健康になる。
機械・医工学コース 教授 田中 徹
「マイクロチップ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?大きさ数mm角、厚さ1mm以下の薄片に、数億個以上の回路や部品を作り込んだものです。回路や部品はナノ(10-9)メートルという超高精度で作られています。そのマイクロチップを使って、体内に埋め込んで機能する新しい医療装置や、身に付けて健康状態をモニタリングする装置の開発が、世界中の大学や企業で行われています。私達が研究している医工学マイクロチップもその一つです。例えば、日本をはじめとする先進諸国は高齢化が急激に進んでいます。それに伴って、医学的な治療法が確立していない網膜の病気で視力を失う人の数が増えています。その病気に対して、工学的手法で視覚を再建する「人工網膜チップ」を開発しています。
三次元集積化という新しい技術を使って、小さく高機能のイメージセンサと電気回路を作り、それを目の中に埋め込んで視覚を取り戻すものです。また、近赤外光の照射によって可視光を発生する新しい材料を、マイクロ・ナノ技術で加工して体内に埋め込み、体外から近赤外光を当てて発生する可視光で病気の診断や治療をする「アップコンバージョンデバイス」も開発しています。他にも、爪の上から脈を測る「経爪型脈波計測チップ」の開発も進めています。つけ爪にチップを組み込むので、普段の生活の邪魔になりません。心電図や血圧の計測にも利用できます。日常生活の中で自然に健康チェックができれば、病気の予防や早期発見ができます。医学部の先生や企業の方と協力して、このような新しい医療装置や健康モニタリング装置を作ることができれば、使用者のQOL(生活の質)の向上に繋がります。機械・医工学コースでは、生体の仕組みを機械に活かして医療や介護支援を革新する様々な技術を研究することができます。若い皆さんの真面目な思いが、健康で安心な社会を実現する鍵です。是非、医工学にチャレンジしてください。
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英語で学び探究する機械工学。世界を舞台に輝くために
国際機械工学コース 教授 陳 迎英語で学び探究する機械工学。世界を舞台に輝くために
国際機械工学コース 教授 陳 迎
東北大学工学部機械知能・航空工学科は、日本一の機械工学科として更なる教育研究の質の向上に努め、国際的なトップクラスの教育研究拠点を目指しています。世界中の優秀な留学生向けの国際機械工学コースIMACが2011年10月に開設されてから10年目になりました。IMAC(International Mechanical and Aerospace Engineering Course)は、日本で初めての秋期入学の学部からの英語での工学系学位コースであり、学士(IMAC-U)から修士課程・博士課程(IMAC-G)まで一貫した人材育成を行っています。IMACの教育・研究の質の高さ、アドバンテージの背景となっているのが、本学科の大規模かつ多彩な学問領域(100を超える研究室)と、世界に向けて先駆的研究を発信しつつ、教育のグローバル化に情熱を持つ教授陣です。学生は高水準の教育と研究を世界標準言語である英語で受けながら、日本語や日本文化にも親しみを感じることができます。IMACはこれまで留学生を対象としてきましたが、2017年度から日本人学生を対象としたグローバル入試を導入し、英語での工学教育を基盤とした国際共修環境において将来、世界のリーダーとして活躍する研究者あるいは技術者を育成しています。グローバル入試は、主に大学入学共通テストを受験したうえ英語で学びたい日本人高校生に加えて、海外高校、国際バカロレア認定校、インターナショナルスクールで学んだ日本人高校生を対象としており、大学入学後には留学生と共に日本語コースと同一の内容の授業を英語で受けることになります。ここでの異文化交流は、多様な価値観、国際感覚・センス、広い視野など、グローバル人材に必要とされる多くの教養と知識を育んでくれることでしょう。自身の新しい可能性と出会い、国際人としての能力を磨き鍛え、世界という大舞台で先導的な役割を果たしてほしいと願っています。
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小さなナノ機械で作る未来社会
機械システムコース 教授 小野 崇人小さなナノ機械で作る未来社会
機械システムコース 教授 小野 崇人
自動車や建築、農業など、これまではあまりエレクトロニクスが使われてこなかった分野でも、情報化、エレクトロニクス化が進んでいます。基本的に、センサを使って情報を集めて、それをインターネットに送り、クラウドと呼ばれる情報空間でビッグデータ化し、私たちの暮らしに役立つようになります。今後、IoT(モノのインターネット)化が進んだ社会では、小さく高機能な機械が身の回りにたくさん現れてくることでしょう。人の健康状態を知るセンサも、工場などの環境を監視するセンサも、小さければ少ない電力で高速に動かすことができます。小さいことのメリットはたくさんありますが、よいアイデアが思いついても、実現するノウハウが無ければ形にすることはできません。これまでに積み上げて世界をリードしてきた機械の微細加工技術がある、ここ東北大学での恵まれた設備環境を存分に活かし、私たちは未来社会を切り拓くマイクロ・ナノシステムを創成しています。
例えば、現在のナノテクノロジーやマイクロシステム技術を基盤として、ITや医療、エネルギー、環境、ナノサイエンスのための微小機械を開発し、極限の感度を目指した「極限センサ」を開発しています。私たちが作るセンサにより、今まで見えなかったモノが見えてくるようになります。昔は「細胞一個の発する熱」は微少過ぎて測ることができませんでした。しかし、私たちの開発した細胞サイズの超小型温度センサにより、はじめて細胞一個単位の発する熱を測ることができるようになったのです。また、センサを動かすには電気が必要ですが、そのための発電技術も開発しています。ウェアラブルな発電器や身近なエネルギーシステム、さらには量子を操る素子なども開発しています。
ナノスケールでデザインし、精密加工された微小機械は、今後様々な分野で応用することができ、それによって私たちの健康や生活に寄与する新たな技術が生み出されようとしています。
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自ら動くことがないロボットが拓く新しい人間支援のかたち
ロボティクスコース 教授 平田 泰久自ら動くことがないロボットが拓く新しい人間支援のかたち
ロボティクスコース 教授 平田 泰久
最近、健康寿命という言葉をよく聞きます。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されており、2016年の日本人の健康寿命は男性72.14歳、女性は74.79歳との報告があります。平均寿命と健康寿命との差を見ると、男性8.84年、女性12.35年と長期間「健康でない期間」を過ごすことになります。誰もが不健康になりたいとは思いませんが、たとえ体に何らかの障害を持ったとしても、日常生活が制限されない、もしくは多少の制限はあっても生き生きと生活することができることが重要です。我々の研究室では、人が自らの力で生活し、意欲的な活動を支援するロボットの開発を目指しています。
その中の一つが人を支援する非駆動型ロボットです。このロボットはモータなどの駆動力を極力使わず、基本的に人の力のみで動かされます。人が少し助けて欲しい、もしくは危険な状態にあるというときだけ支援を行うロボットです。これにより、人はロボットに常に助けられているわけではなく、自ら主体的に運動していると感じます。たとえ体の部位に障害があっても運動をあきらめることなく、自らの意欲的な活動を後押しできるロボットを開発したいと考えています。
我々は、高齢者や障がい者の日常生活の支援だけでなく、下肢に障害を持ったダンサーを支援するという、より活動的かつ芸術的な分野での人間支援ロボット開発もフランスの大学と共同で行っております。また、人が主体的に動くということを前提に、人が移動すべき方向のみを教示するハプティックデバイス(振動呈示装置)を用いて、人にスポーツを教えるという技術の研究も進めており、この技術が確立できれば、高齢者や障がい者だけでなく健常者も、楽しくかつ上手にスポーツを楽しむことが可能となります。
ロボットやハプティックデバイスの研究開発を通して、人がいつまでも生き生きと活動できる社会を創りたいと考えています。
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人に役立つ開発を目指して:ミクロな機械が切り拓く次世代医療
機械・医工学コース 教授 芳賀 洋一人に役立つ開発を目指して:ミクロな機械が切り拓く次世代医療
機械・医工学コース 教授 芳賀 洋一
SF小説や映画、漫画などで「小さくなって身体の中に入り込み体内から精密な検査や治療を行う」様子が描かれることがあります。縮小する技術が無くても小さく高機能な医療機械を開発しバーチャルリアリティ技術などを利用し、まるで体内に入り込んだかのような没入感のなかで体外から体内の機械を操作し精密で安全な治療を行うことは今後十数年で実現できると思われます。この実現に欠かせない技術として小型で精密計測や多機能化が実現でき量産も可能とするMEMS(微小電気機械システム)技術があります。既にMEMS技術による慣性力センサ、圧センサなどが車、ゲーム機、スマートフォンなどへ搭載されていますが、医療、ヘルスケアへの本格的な応用がこれから始まると期待されており、数年後の実用を目指した機器開発、長期目的のために今後に役立つ作製技術を開発、蓄積することを行っています。以下に開発例を示します。
高機能、多機能な低侵襲医療機器の開発:内視鏡やカテーテルなど細い医療機器を体内に挿し入れ手術に匹敵する検査・治療を行う低侵襲医療機器の更なる高機能化、新機能搭載を目指し、極細径圧力センサ、超音波センサ、さらにアクチュエータを用いた自ら動く機器を開発しています。
体表から生体計測・治療を行う機器の開発:体表から血行動態およびストレス反応を計測する装置、鍼灸鍼に流路を作製し皮下組織液を採取し採血せずに生体成分を連続計測するシステム、超音波経穴刺激装置、体表から生細胞を数時間ごと採取しタンパク発現の時間変化を捉えるデバイスなどを開発しています。
非平面MEMS加工、実装技術の開発:体内挿入に適したチューブ形状などに適した新たなMEMS加工技術および実装技術の開発、それに必要な装置開発を行っています。
マイクロセンサを搭載した臓器モデルの開発:医師の手術訓練および、医療機器開発の際の安全性や有効性評価に役立つ、マイクロセンサを搭載した今までにない臓器モデルの開発を行っています。